桜花彩麗伝

第十一話


『陛下は文官たちを味方につけてください。どんな手を使っても構いません。“王が妃選びに関与すること”に、彼らを納得させてください』

 朔弦の言葉を反芻(はんすう)した煌凌は難しい顔で腕を組んだ。

 簡単に言うが、具体的にどうしろと言うのだろう。考えがあるのであればその策まで教えて欲しいものである。
 どんな手も何も、煌凌には使える手などそもそもないというのに。

(この宮中で余の味方をしてくれる文官など────)

「!」

 はっとひらめくと同時に顔を上げる。……ひとり、いた。
 意気を取り戻した王はさっそく“彼”の執務室へと赴いた。



「────と、いうわけなのだ。どうか余に力を貸してくれぬか? 元明」

 諸々の事情を語り、痛切な表情で哀願(あいがん)する。
 いつものようにふらっと現れた王だったが、いつもとちがっていたのは饒舌(じょうぜつ)に自らの意を口にしたことであった。

 少し驚きつつも元明は(しん)に受け止める。とはいえ、一から十まですべてを無条件に受容(じゅよう)することはできなかった。

「主上自ら……娘を嫁にくれとおっしゃるのですね?」

「う、うむ。だめか……?」

 予想以上に煌凌は春蘭に関心を寄せているらしかった。
 義務的に妃候補者となることや鳳蕭両家の確執(かくしつ)をさておいても、彼の意思がそこにはあるようだ。

『余が王であることは、春蘭には秘密にしておいてくれぬか?』

 身分を偽って何度も会った挙句、本来の自分を明かすことも(いと)わず宮に召し上げようとは。
 王としてか煌凌としてか、いずれにしても覚悟を決めた上で下した判断のように思える。

 娘を持つ父親としては複雑な心境だが、煌凌のそんな変化は元明にとっても嬉しいものであった。
 そう感心したところだったが、彼は次に三流以下の本音をこぼしてしまった。

「余は、元明も春蘭も好きだ。だからふたりともそばに置きたい」

 それが嘘偽りのない、正直で率直な思いなのだろう。

 覚悟や役目など二の次で、ただ自分を(おびや)かすことのない快い人物で周囲を固め、現状に胡座(あぐら)をかいていたいだけなのだ。
 それだけが、彼の心を救う(すべ)だから。

「主上……」
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