桜花彩麗伝
五人の令嬢たちは、巫女の前に横並びで立った。
────春蘭は袖の中に隠していた、先ほどの飾りを髪につけておく。
「それでは、最後の組の審査を開始します。まずはこちらのご令嬢から」
宮官は芳雪を指した。ここでは順不同らしく、宮官の指名した順に審査が行われるようだ。
名を呼ばないのは恐らく公平を期すためであろう。
あくまで人相を評価させるため、誰がどこの娘であるかを特定されないように────たとえば太后が“蕭家を贔屓せよ”と巫女に命じれば、巫女は人相など見るまでもなく蕭姓の娘に最高評価を下すはずである。
また、順番を無視するのも同様の理由からだろう。
ふたりの巫女は芳雪をじっと見据えた。
「立ち姿は花のように美しく、ご気性は実直で温和……他人を思いやる心は十分ですが、王妃に必要な気概が少々足りません」
「それゆえに、ご自身の望みは叶わぬ運命です。しがらみに囚われ、損をなさりますが、大きなものを得られる可能性をお持ちです」
「それは不本意なものでしょうが、望むと望まざるとに関わりません。いずれ決断のときが来るでしょう」
正直なところ、春蘭は驚いた。意外なことに具体的な評価が下されている。
彼女たちは太后に買収されているはずだが、いくらその息がかかった巫女といえど、占星院の巫女であるだけある。
その神力は本物なのだろう。
「続いて、こちらのご令嬢」
宮官は帆珠を示した。
彼女は唇の端を持ち上げ、堂々たる微笑を浮かべる。
自分こそが王妃に相応しいと、みなの前で証されるときが来た。
「はっきりとしたお顔立ちはご多幸の象徴です。恵まれた環境で、愛されてご成長されたことでしょう」
「ですが、その幸福はすべてお父上次第……多くを望めば、破滅に向かいます。分不相応なお望みはお捨てください」
「また、激しい性分でいらっしゃるゆえに衝突が多い。王妃に必要な慈愛の心が不足しております」
候補者たちも、控えていた女官たちも、その予想外の評価にざわめいた。
帆珠は内定者ではなかったのだろうか。
「な、何ですって……?」
彼女自身も動揺を禁じ得ず、不可解そうに眉をひそめる。
国巫以外の巫女を抱き込んだ、という話を太后から聞いていたが、思わぬ展開に理解が追いつかない。
「発言はお慎みください」
怒りと困惑を顕にふたりの巫女を詰めようとした帆珠を、先んじて宮官が制する。
「これは審査です。意見も質問も許可されておりません」
帆珠はわなないたが、何とか激情をこらえた。
そうしなければ、淑徳殿での二の舞になる。不利になるのは自分だ。
「……っ」
ぎり、と奥歯を噛み締め、口を噤む。
いったい、何がどうなっているのだろう。
太后は嘘をついたのだろうか。もしや、裏切られた?
そんなことを考えているうちに、宮官が今度は春蘭に向き直った。
「お次は、こちらのご令嬢」