桜花彩麗伝

 ふたりの巫女は春蘭を見やる。
 ひと目見た瞬間、何かに気づいたように頷き合った。

「これは、まさしく光り輝く(そう)の持ち主です」

 感嘆したような巫女の言葉に、候補者たちはさらにどよめく。

 驚愕の視線を一身に浴びても、春蘭は動じることなく凜として立ち、訪れた()()()()の展開に小さく頬を緩めた。

「眉、目、鼻、唇、輪郭に至るまで、位置も形もすべてが完璧でございます。徳が高く、極めて高貴ですが、明朗(めいろう)で心優しいご気性ゆえに人を惹きつける。自然と人が寄り集まってくることでしょう」

「陽の気に満ち、力強くも慈悲深い……。間違いなく、王妃の相です」

 ふたりの巫女は代わる代わる熱弁した。
 喜ばしげに微笑をたたえる春蘭を、隣にいた帆珠が鋭く睨みつける。

(どうなってるのよ……! 何で鳳家の娘が王妃の相なんてことになるの!?)

 本来であれば、この評価を受けるのは自分であるはずだった。
 あろうことか巫女たちが人違いでもしたというのだろうか。
 羨望の眼差しを一身に受ける彼女に、止めどない憤りが募っていく。

「…………」

 春蘭は心の底から朔弦に感謝した。
 彼の言葉はこういう意味だったのだ。
 その忠告があったからこそ、帆珠の髪飾りと妙な行動に気づくことができた。

 ────恐らく、帆珠の落とした髪飾りが“印”であった。
 最高評価を下すべき娘であるという印。太后側の巫女への合図だ。
 顔を拭ったとき、女官が帆珠に手渡したのだろう。
 “蕭帆珠”の顔を知らない巫女たちは、髪飾りをつけた春蘭が()()であると誤解した。
 そのため、このような評価となったのだ。

 あのとき、気づかず帆珠に飾りを返していたら。それを考えると、安堵の息がこぼれる。
 彼女が髪飾りを落としてくれたことも幸運だった。

「続いて、こちらの────」

「必要ない」

 ここで初めて国巫が口を開き、宮官の促す言葉を遮った。
 厳然とした声が、清らな水滴のように落ちて響く。

「王妃たるに相応しい娘が現れたというに、これ以上の審査に意味があるか?」
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