桜花彩麗伝

 あからさまに春蘭を庇い、帆珠を非難しようとしたという。
 実際に非があるのが帆珠であっても、本人は“恥をかかされた”と春蘭に対してお門違いな恨みを抱くかもしれない。

 また、太后にも面と向かって刃向かった。
 その件で、太后はますます春蘭を邪険(じゃけん)にする可能性がある。

 それでは確かに、害はすべて春蘭に向かうだろう。
 帆珠から報復を受けたり、今後の審査で太后に不当な評価を受けたり、煌凌に手出しできない以上、矢面(やおもて)に立つのは彼女だ。

「……すまぬ」

 最初は朔弦が怖くて謝っていたが、だんだんと彼の言わんとすることが分かってくると事の重大さを理解でき、しおらしく謝罪した。

「まあまあ、その辺に。陛下も反省なさってる」

 悠景だけは変わらず暢気な様子で、ぽんと朔弦の肩に手を置いた。

「実際、陛下が助けたのも事実ですよ。陛下があの場に現れたから、春蘭殿は失格にならずに済んだ」

 その言葉に煌凌は顔を上げる。そうなのだろうか。

「春蘭殿に吹っかけたのは蕭帆珠、侍中の娘御(むすめご)ですから。陛下がいなければ、太后が何やかんや丸め込んでたにちがいねぇ」

 のちの憂慮(ゆうりょ)禍根(かこん)は残ったが、乗り込んだこと自体を誤りだと決めつけてしまうのはちがうと、悠景は言ってくれたのである。

「だろ?」

「……ええ、まあ」

 朔弦も頷く。その点に異論はない。
 ただ、その後が問題だったと言いたいのである。
 あの場は王の存在だけで十分おさめられたのだから、わざわざ出しゃばる必要はなかった、と。

 それが尾を引き、一次審査の結果に影響を及ぼした可能性もある。
 もともと巫女が太后側であるために、ただでさえ不利な戦いなのに、さらに苦境に立たされたかもしれない。

 どちらにせよ、一次審査においてよい結果は見込めないだろう。



「陛下!」

 騒がしい声が響いてきたかと思えば、例によって清羽が陽龍殿へ駆け込んできた。

 今度は何ごとだろう。
 まさか瑛花宮でも揉めごとが起きたのだろうか。
 しかし、嫌な予感を覚えた三人とは対照的に彼の表情は明るかった。

「お喜び申し上げます……! 第一次審査の結果は上々です!」
< 292 / 313 >

この作品をシェア

pagetop