桜花彩麗伝

 悠景と朔弦は顔を見合わせる。
 予想外の言葉に王も目を見張った。

「いま、何と言った? 一次が上々って……どういうことだ?」

 悠景が全員の疑問を代弁する。

「満場一致で春蘭お嬢さまに最高評価が下されました! 国巫までもが王妃の相だとお認めになられたそうです!」

 あふれんばかりの笑顔で答える。
 詳細はまだ不明だが、その事実だけは女官や内官の間で既に噂されていた。

「よかった、春蘭……」

 煌凌は肩の力を抜き、深く椅子に沈み込んだ。
 これで万事終わりではないとはいえ、第一関門は突破できたと見て間違いないだろう。

「よかったはよかったが、いったいどうなってんだ。巫女は太后側の者じゃなかったのか?」

 悠景は素直に喜んでいいものか悩んでいる様子である。
 確かに朔弦はそう予測していて、春蘭はこれで落とされてもおかしくないという話だったはずだ。

「“気づいた”のでしょう」

 一方の朔弦は、何ら疑いを抱いていないようである。
 普段は能面のような顔を、師として満足気に綻ばせている。

 ────不正を見つける。
 糾弾(きゅうだん)するのではなく、利用する。
 春蘭へかけた言葉の真意を、彼女は正しく解釈した上で実行してみせた。
 それがこの結果なのだと、素直に感心した。

 うまく矢を(かわ)したものである。
 躱すだけでなく、跳ね返すとは思いもしなかったが。

「だが、国巫まで認めるとは……。春蘭殿は本当に、王妃となるべき運命なのかもしれんな」

 その呟きを聞きつけ、煌凌は姿勢を戻す。

「それなのだが、国巫は何ゆえそのような評価を下したのだ?」

 まさか、春蘭が抱き込んだわけもあるまい。
 国巫は堅物として有名で、鳳家の力を持ってしても動かないだろう。
 だからこそ太后も手を出さなかった。

「蕭家勢力に抗うため鳳家に肩入れしたか、単に見たままを申したに過ぎないか……。恐らく後者でしょうね」

 朔弦は静かに答える。
 いくら国巫であれど、あの場で春蘭の素性までは分からないはずだ。
 必然的に後者の可能性が有力となる。

「…………」

 煌凌は目を伏せた。真に悠景の言う通りなのかもしれない。
 春蘭が王妃となるのは必然だと────。

「浮かない顔してどうされたんです?」

 不思議そうに悠景が尋ねる。
 春蘭を正妃に迎えたい彼にとってはこの上なく喜ばしい結果であるはずなのに、どうしてこうも表情が暗いのだろう。

「……ほかに、想い人でも?」
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