桜花彩麗伝

 しかし、太后は優しく笑んで呼ぶ。

「よい心がけだ。上に立つ者として相応しい」

 例によって全肯定されると、帆珠も満更でもない様子で笑み返して礼をした。

「…………」

 令嬢たちはあまりの不公平さに辟易(へきえき)しながらも、抗議の余地もないため渋々引き下がった。
 太后が後ろ盾の蕭家になど、敵うはずがない。

「第二次審査の日程は決まり次第、宮官を通して連絡する。それまで五名は瑛花宮で待機していなさい」

 太后は最後にそう言うと、門の方へと歩き出す。
 軒車の音が遠ざかって聞こえなくなるまで、令嬢たちは(こうべ)を垂れたまま見送った。



 帆珠がさっさと引き揚げ、璃茉と珂雲もいづらそうにこの場を離れていくと、春蘭も一度部屋へ戻ろうと足を踏み出した。
 そのとき、背後から控えめに声をかけられる。

「……あの、春蘭さま」

 振り向いた先には、先ほど名を呼ばれなかった────第一次審査で落第した令嬢たちが連なっていた。

「どうか、王妃になってください」

 ひとりの令嬢が懇願するように言うと、ほかの面々も同調するべく頷く。

「え」

「……そもそもおかしいと思いませんか? この結果」

 それについては確かに春蘭も同感だが、太后と蕭家が癒着(ゆちゃく)している事実を打ち明けるべきか否か即座に判断がつかず、何も言えない。
 この不自然な結果は、それゆえなのだが。

「芳雪さまはともかく、ほかのお三方の合格には納得がいきません」

「それで蕭派が優遇されているのかと思ったのですが、春蘭さまは……」

 敵対する鳳家出身者である。
 真っ先に落とされてもおかしくない中、見事に合格を勝ち取った。
 それは、実力によるものにほかならない。
 だからこそ太后や蕭家も、難癖をつけて落第させたり失格にしたりすることも叶わず、どうにもできなかった。そもそもつける難癖がないのだから。

 みなまで言われずとも、春蘭は何となく彼女たちの言いたいことが分かってきた。

「ですから、春蘭さま。どうか勝ってください!」

「卑劣な連中に負けないで。春蘭さまが希望なのです。春蘭さまが王妃になったなら、わたしたちの無念も晴れます」

 心に(くすぶ)る不満を吹き飛ばすことができるだろう。
 この不平等な妃選びを、正々堂々制してくれたなら。

 春蘭は凜と姿勢を正した。

「……はい。わたしは負けません」
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