桜花彩麗伝
◇
「どうかお考え直しください」
煌凌がその言葉を聞いたのは、もう何度目のことであろうか。
臣たちは日がな一日、王の前で同じ言葉を唱え続けている。
蒼龍殿内でも、その前でも、中には陽龍殿まで追いかけてくる者もいた。
否定的な態度で“考え直せ”と諌言する彼らの後頭部を見下ろすのにも、そろそろ飽きてきた頃である。
泰明殿の中で、玉座に座る王はうんざりとため息をついた。
「……いい加減にせぬか」
ほとほと呆れ返ってしまう。
普段は走狗として容燕の言うことに首を縦に振るばかりであるくせに、と胸の内で悪態をつく。
彼らが「左様」以外の言葉を知っていたとは思わなかった。
「いいえ、主上。断じて許されることではありませぬ」
「正妃がいらっしゃらぬのに、ご側室とは……。王室の体裁と国の綱紀をお守りください」
「しかも鳳婕妤さまは惨たらしい事件を起こして罷免となった鳳元明の娘御ではありませぬか。罪人の子にかような厚遇は許されませぬ!」
「どうか、早く正妃をお迎えなされ。家門も素養も、蕭家の娘御以外に適任者はおりませぬ」
それが総意だ、と言わんばかりに各々頷き合っている。
煌凌は、ああ、と思った。それらすべてが容燕の意なのであろう。
彼らはやはり走狗として申し分ない。
この場に容燕がおらずとも、あの男の望むところをしてのけている。
一方の鳳派は肩身が狭いのか、決まりの悪そうな表情で目を見交わすが、反駁できないでいるようだ。無理もない。
す、と煌凌は玉座から立ち上がった。
「────二度と、余の前でその話をするな」
威圧するかのような態度に、臣たちは少々どよめいた。
散々目にしてきた“気弱な王”という印象からは乖離した姿に驚きと動揺が隠せない。
「し、しかし……」
「王である余が決めた妻に、いち臣下に過ぎぬそなたらが口出しするのか?」
「どうかお考え直しください」
煌凌がその言葉を聞いたのは、もう何度目のことであろうか。
臣たちは日がな一日、王の前で同じ言葉を唱え続けている。
蒼龍殿内でも、その前でも、中には陽龍殿まで追いかけてくる者もいた。
否定的な態度で“考え直せ”と諌言する彼らの後頭部を見下ろすのにも、そろそろ飽きてきた頃である。
泰明殿の中で、玉座に座る王はうんざりとため息をついた。
「……いい加減にせぬか」
ほとほと呆れ返ってしまう。
普段は走狗として容燕の言うことに首を縦に振るばかりであるくせに、と胸の内で悪態をつく。
彼らが「左様」以外の言葉を知っていたとは思わなかった。
「いいえ、主上。断じて許されることではありませぬ」
「正妃がいらっしゃらぬのに、ご側室とは……。王室の体裁と国の綱紀をお守りください」
「しかも鳳婕妤さまは惨たらしい事件を起こして罷免となった鳳元明の娘御ではありませぬか。罪人の子にかような厚遇は許されませぬ!」
「どうか、早く正妃をお迎えなされ。家門も素養も、蕭家の娘御以外に適任者はおりませぬ」
それが総意だ、と言わんばかりに各々頷き合っている。
煌凌は、ああ、と思った。それらすべてが容燕の意なのであろう。
彼らはやはり走狗として申し分ない。
この場に容燕がおらずとも、あの男の望むところをしてのけている。
一方の鳳派は肩身が狭いのか、決まりの悪そうな表情で目を見交わすが、反駁できないでいるようだ。無理もない。
す、と煌凌は玉座から立ち上がった。
「────二度と、余の前でその話をするな」
威圧するかのような態度に、臣たちは少々どよめいた。
散々目にしてきた“気弱な王”という印象からは乖離した姿に驚きと動揺が隠せない。
「し、しかし……」
「王である余が決めた妻に、いち臣下に過ぎぬそなたらが口出しするのか?」