桜花彩麗伝
彼の言っていた通り、あらかじめ移送していた珀佑は無事であった。
錦衣衛での出来事を聞き、驚愕したようではあったが、それだけに留まった。
その所業を思えば自業自得と言わざるを得ず、同情の余地はないと判断したのであろう。
「わあ、まさか王さまとそのご側室にお目にかかれるなんて。捕まるのも悪くないね」
「おい、そんな暢気なこと言ってる場合かよ……」
「まあね。でも実際、よかったよー。櫂秦とも再会できたことだし」
珀佑は笑みを絶やすことなく言った。
色素の薄い柔らかな髪や瞳、垂れがちな目のふちは櫂秦たちとは異な印象を有しているが、その双眸に宿る意志の強さはよく似ていた。
警戒心を抱かせない砕けた態度は親しげながら、誰にでも懐かない幻獣のような厳たる雰囲気がある。
終始、万人や万物を値踏みしているかのごとく隙のない笑みだ。
「……まさかとは思うけど、わざと捕まったのか? おまえがそんなヘマするとも思えねぇし」
「そうかもね」
こともなげに言ってのけた珀佑は、煌凌と春蘭にさらりと視線を移す。
「さて、それじゃあ本題に入りましょうか。こうして命まで助けてもらったことだし」
牢の中にいるとは思えないほど悠然とにこやかに言った。
────珀佑曰く、紅蓮教と蕭家および蕭派の繋がりは確定だという。
かの邪教は薬材の値上がりを待ち、金儲けを目論んでいる。
一方、蕭家や蕭派の方の思惑はよく分からないが、連中と同じか金儲けの先に何かを企てているのかもしれない。
「根拠地は桜州にある千江寺って寺だけど、頭には一度も会ったことがありません。聞いた限りでは、ほかの教徒も誰も知らなかった」
「……誠か」
「まー、一部の幹部は報告のために接触してるみたいですけど。下っ端とか普通の教徒たちは頭の顔も名前も知りません」
こたび捕縛された教徒たちが口封じのために始末されたように、それは秘匿性を保つための措置なのであろう。
知らなければ、そもそも情報が漏れる恐れがない。
紅蓮教はそうして狡猾に根を張り、蕭家という養分を得てなお枝を広げているのだ。
「……よく無事でいてくれたわ」
春蘭は思わず労るように言った。
常に死と隣り合わせの過酷な環境下で、ほかの教徒を欺き通し、生き延びて櫂秦と再会を果たした。
それだけでなく、謎に包まれている紅蓮教の実情が垣間見える情報を持って帰還した。
やはり、ただ者ではない。