桜花彩麗伝

 紫苑の言葉に光祥も同調した。

「僕も聞いたことある。もう随分と前から行方が分からないらしいね」

「じゃあ……院長と繋がってるのは必然的に次男ってことになるわよね」

「そうだね……。うーん、思いのほか大事になってしまうかも」

 光祥は苦い顔で言った。

 蕭家に従うならず者の仕業ならまだしも、蕭家の次男が関わっているとなると、断罪(だんざい)の際には容燕本人が介入してくるだろう。

「……確かにそうなると、容易に立証できないかもしれませんね」

 紫苑がぽつりとこぼす。

「どうして?」

 ふたりの反応に春蘭は首を傾げてしまう。対処が難航(なんこう)するということだろうか。

 蕭家がいかに権力を持っていても、朝廷での勢力が圧倒的でも、悪事は悪事である。

 逆襲(ぎゃくしゅう)を恐れて見て見ぬふりをするなどという話であれば絶対に間違っている。
 偉ければ、権威があれば、罪が見過ごされるなんておかしい。

「蕭家の力は侮れない。いまや王をも操ってるって話だ。そんな強大な相手を、僕たちが倒せると思う?」

「倒すなんて。そうじゃなくて、少し()らしめられたら十分よ。いくらお(いえ)がよくても何でも許されるわけじゃない、って思い知らせるだけで」

 春蘭はそう言ったが、彼らの顔は曇ったままだった。何かおかしなことを言っただろうか。
 暗い表情の理由が分からず、春蘭はますます首を傾げる。

 鳳家の娘として生まれた春蘭は、朝廷の内情には(うと)くても、何となくの勢力図は理解しているつもりだった。

 朝廷が鳳家と蕭家の二項(にこう)対立状態になっていることも把握していた。

 いずれも太祖(たいそ)である初代国王・光玄王(こうげんおう)の右腕として、建国当初から続く由緒ある家門だ。
 その二家が台頭(たいとう)するのは必然と言える。

 しかし春蘭にとって蕭家は、決して“敵”という認識ではなかった。
 ただ、他家よりも少しばかり厳格で荘厳(そうごん)なだけだろう。

「お嬢さま、蕭家を買い被ってはいけません。私利私欲の塊のような輩ですよ」

 諌言(かんげん)するように紫苑が言う。

「懲らしめても反省などしないでしょう。それどころか、お嬢さまや鳳家を逆恨みするにちがいありません」

「え……?」
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