桜花彩麗伝

「う、うむ」

 思わぬ食いつきぶりにやや気圧され、煌凌はたじろいでしまう。

「十六衛のどこ? 羽林軍? 錦衣衛? 禁軍(きんぐん)?」

「……左羽林軍だ」

 十六衛の名称を羅列してみると、考えるような間があってからそんな答えが返ってきた。
 またしても適当に選んだに過ぎなかったが、春蘭はさらに驚く羽目になった。

 朔弦の存在が脳裏(のうり)をよぎる。煌凌はまさしく彼の部下ということだ。

「……して、なにゆえそれほど興味津々なのだ?」

「えっ。あ、えーと……ちょっと聞きたいことがあってね」

 さすがに(いぶか)しまれ、春蘭は少し慌てた。
 しかし思わぬ情報源を得た以上、この機会を逃すわけにいかない。

「兵部の尚書が誰だか知ってる?」

 下級の武官や兵士は直属の上司の名を知っている程度で十分だろうし、煌凌が末端の兵ならば望みは薄いかもしれない。
 尋ねる傍らでそう思ったが、彼は当然のような顔をして答えた。

「もちろんだ。蕭航季という」

「蕭……! それって、蕭家の次男?」

「うむ。だが、それがどうしたのだ」

 心底不思議そうに煌凌が尋ねる。どんな理由があって春蘭がそんなことを気にするのだろう。
 一方で腑に落ちた春蘭は曖昧に笑いながら首を横に振った。

「ううん、いいの! 気にしないで」

 紫苑の憶測はどうやら正しかったようだ。
 不正授受が蕭家の主導であることが確定した以上、諸々(もろもろ)の薬材に関する不穏な動向も彼らの企みで間違いないのだろう。

「……それより、あなた羽林軍の兵って言ったわよね」

「い、言ったが……」

「どうしてこんなところで油売ってるの?」
< 62 / 334 >

この作品をシェア

pagetop