桜花彩麗伝

 しかし、真っ向から立ち向かったとしても、やはりいずれも太后が敵う相手ではない。
 朔弦の主張には異論などなかった。

「なので、まずはどちらかの家につき、片方の勢力を一掃するのです。そうすれば、残った家を没落させることも不可能ではなくなるでしょう」

 真面目な顔で朔弦の言葉を聞いていた悠景は、大いに納得したように腕を組んで深く頷いた。

「……確かに、そりゃいい案だな。二家を落とせば太后さまの天下となります!」

 現王は無能の極みだ。
 (まつりごと)摂政(せっしょう)である蕭家当主の容燕(ようえん)に任せきりで我関せず。

 王業に興味も意欲も見せないくせに、玉座にだけは執着している。
 容燕に怯えながら、元明に依存するだけの役立たずである。

 すなわち天下を欲したとき、実質的な脅威となるのはその二家のみだ。

「…………」

 太后は悠景のあと押しを受けつつもしばらく(もく)した。
 長椅子から立ち上がり、窓際へと歩いていく。

 太后が鳳家や蕭家と表立って対立し、三すくみの状態になっては、不利になるのはどう考えても太后だろう。

 権力を欲する太后を潰すことなど、二家が手を組めば────否、その気になれば一方のみでも一瞬だ。
 いまは息を潜めているお陰で難を逃れているに過ぎない。

 朔弦は逡巡(しゅんじゅん)する太后を見やった。
 何を迷うことがあるだろうか。

 “どちらか”などと選択肢を呈示したが、答えは最初からひとつしかないと思っていた。
 蕭家の一択である。

 そもそも鳳家には、闘争心や害心(がいしん)がない。
 彼らは蕭家を積極的に敵視したりはしないだろう。

 となると、手を組んだところで蕭家征伐(せいばつ)に意欲を見せるとは思えない。

 一方の蕭家もとい容燕は、元明の排除とその座を狙っているため、目的や意志の統一が(やす)い。

 さらに、この計画には利点があった。

 一方の家と協力関係を結ぶということは、裏を返せば、その家の脅威から身を守れるということである。

 太后を害するとすれば蕭家くらいなものだが、蕭家と手を組めばその危険性さえ潰せてしまうのだ。

 そのため朔弦にとっては、最初から鳳家という選択肢は眼中になかった。
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