死ねばレベルアップ! 行き詰ったアラフォーがなぜか最強少女に!? 第二の人生で目指す究極のスローライフ
11. 最高の死に方
本当に……、そうか……?
ソリスは胸の奥からあふれてくる違和感に頭を抱える。
仲間二人が亡くなったというのに自分は豪遊? 本当に?
ソリスはギリッと奥歯を鳴らし、流されそうになってしまう自分を、ギリギリのところで食い止める。
華年絆姫の名を歴史に刻む、それが喪われた仲間に対する贖罪であり、責任なのだ。
ソリスは自分の頬をパンパンと張る。
「退かない! 何度だって死んでやるわ! フィリア……イヴィット……見ててよ!」
ソリスは全身に気迫を漲らせ、ボス部屋の巨大な扉を押し開けた。
◇
ここのボスは、過去の踏破者の話によると物理攻撃が効かず、光魔法を湯水のように乱射して力押ししたという話だった。大剣しか攻撃方法のないソリスには極めて相性の悪い敵である。生き返るとしても、どんなにレベルを上げても倒せないのだとしたら、二度とボス部屋からは出られない。無限に殺され続けるだけになってしまうのだ。
ソリスはブルっと身体を震わせて、その嫌なイメージを振り払う。
ポケットからトパーズの魔晶石を取り出すと、パチッと大剣のツバの穴にはめた。
ヴゥン……。
大剣はかすかに震え、黄金色の輝きがツバのところから徐々に刀身に広がっていく。やがて大剣全体が激しく黄金色に輝いた。大剣に神聖力を付与したのだ。これで斬りつければ光魔法と同じ効果が付与される。もちろん、僧侶の放つ光魔法には遠く及ばない攻撃力ではあるが、わずかでも攻撃力が通るのであれば活路は開けるとソリスは考えていた。
ソリスは目の前に大剣を立て、目をつぶり、大きく深呼吸を繰り返す。このボスを超えれば実質過去の最高到達深度に並ぶ。華年絆姫の名が街に轟くのだ。喪われてしまった二人の名誉のためにも絶対に勝たねばならない。
ソリスは大剣を風のように振り回し、一連の流れるような動作で基礎の型を舞った。その剣の軌跡は、まるで空中に絵を描くかのように、美しくも力強かった。
ヨシッ!
ソリスは大きくを息をつき、呼吸を整えると決意に燃えた目で重く大きな扉を押し開けていった。
◇
いつもと同じボスのフロア。壁の魔法のランプがポツポツと点灯していくが、広間の中央は黒く煤のようなもので煙っていてよく見えない。
ぼうっと黄金色の光を放つ大剣を前に構え、恐る恐る近づいて行くソリス――――。
煤の向こうで目がキラリと輝き、何者かがスタスタと近づいてくる。
ソリスは立ち止まり、大剣を構え直した。
しかし、現れたのは黒いローブをまとった黒髪ショートカットの背の低い女性……。
「おや、ソリス殿、遅かったでゴザルなぁ」
丸眼鏡をクイッと上げてニヤリと笑う、忘れられない笑顔……、フィリアだった。
ひっ!?
ソリスは首を振りながら後ずさる。
フィリアは死んだのだ。こんなところに居るはずはない。居るはずはないのだが、その声、話し方、そして眼鏡を上げる仕草まで本人そのものなのだ。
「何? こんな幻覚で私を謀れるとでも?」
そう言いながら、ソリスは大剣をカタカタと震わせてしまう。会いたかった仲間が目の前でこんなに生き生きと動いているのだ。例え幻覚だとしてもそれには抗いがたい魅力があった。こんな大剣など今すぐ捨てて駆け出したい。そんな想いを必死に振りはらおうとソリスはギリッと奥歯を鳴らした。
「幻覚? 何を言ってるでゴザルか。そしたら……イヴィットの好きだった男、教えちゃおうか? くふふふ……」
フィリアは、悪い顔をして口に手を当てながらとんでもないことを言いだす。
「お、お前何を言い出すんだ!」
ただの幻覚だと思っていたらとても幻覚とは思えない行動を取りだした。こんな幻覚なんてあるだろうか? ソリスはたじろいだ。
「ちょっと……。あなた……。そういうの、止めてくれる……?」
暗闇からまた一人やってきた。栗色の長い髪を後ろでくくった女性……。イヴィットだった。
ひっ!?
ソリスは後ずさる。それは死んだ時の緑色のチュニックをまとったイヴィットそのものだった。
「くふふふ……。だってソリス殿があたしらを死んだことにしてるのでゴザルよ」
「あたしは……、死んでない……。そう、また昔のように……」
イヴィットは穏やかな笑顔でソリスに手を差し伸べる。
「ちょ、ちょっと、あんたら何なのよ!!」
「さ、ソリス殿、また昔のように三人で仲良く暮らすでゴザルよ!」
フィリアも茶目っ気のある笑顔でソリスに手を伸ばした。
ここは地下三十階のボス部屋。フィリアもイヴィットもいるはずがない。明らかにボスの罠である。そんなことは分かっている。分かってはいるが、この二人の手を拒絶し、大剣で一刀両断にするなんてことはとてもソリスにはできなかった。
ソリスは穏やかな顔でゆっくりとうなずくと大剣を床に置き、幸せそうな顔で二人に両手を広げた。二人は嬉しそうに近づいてくる。
フィリアはちょっと照れたような顔をしてうつむき、イヴィットはニコッと笑う。
ソリスは二人をハグし、懐かしい二人の香りが鼻孔をくすぐった。
そう、そうだよ。これが自分の幸せなのだ……。ソリスはこの甘い時間をじっくりと味わう。自分の心は華年絆姫と共にある。それは一生変わらないのだ。ソリスは涙ぐみながら二人を抱きしめる。
刹那、無数の風を切る音が広間に響く……。
ゴフッ!
ソリスは盛大に血を吐いた。飛んで来た無数の漆黒の短剣がソリスを貫いたのだ。
「くふふふ……、お馬鹿さんっ!」
漆黒のゴシックロリータをまとった真っ白い肌の少女が、黒い霧の中にふわりと浮かび上がり、楽しそうに笑った。
全身を貫く激痛の中、幸せそうな笑顔を見せながら床へと崩れ落ちるソリス。
フィリアもイヴィットも霧のように消え去り、ソリスの哀れな血が静かに床板を赤く染め上げた。
いい夢を見た……。ソリスは今わの際に今までで最高の死に方だったと、満足げにほほ笑んだ。
ソリスは胸の奥からあふれてくる違和感に頭を抱える。
仲間二人が亡くなったというのに自分は豪遊? 本当に?
ソリスはギリッと奥歯を鳴らし、流されそうになってしまう自分を、ギリギリのところで食い止める。
華年絆姫の名を歴史に刻む、それが喪われた仲間に対する贖罪であり、責任なのだ。
ソリスは自分の頬をパンパンと張る。
「退かない! 何度だって死んでやるわ! フィリア……イヴィット……見ててよ!」
ソリスは全身に気迫を漲らせ、ボス部屋の巨大な扉を押し開けた。
◇
ここのボスは、過去の踏破者の話によると物理攻撃が効かず、光魔法を湯水のように乱射して力押ししたという話だった。大剣しか攻撃方法のないソリスには極めて相性の悪い敵である。生き返るとしても、どんなにレベルを上げても倒せないのだとしたら、二度とボス部屋からは出られない。無限に殺され続けるだけになってしまうのだ。
ソリスはブルっと身体を震わせて、その嫌なイメージを振り払う。
ポケットからトパーズの魔晶石を取り出すと、パチッと大剣のツバの穴にはめた。
ヴゥン……。
大剣はかすかに震え、黄金色の輝きがツバのところから徐々に刀身に広がっていく。やがて大剣全体が激しく黄金色に輝いた。大剣に神聖力を付与したのだ。これで斬りつければ光魔法と同じ効果が付与される。もちろん、僧侶の放つ光魔法には遠く及ばない攻撃力ではあるが、わずかでも攻撃力が通るのであれば活路は開けるとソリスは考えていた。
ソリスは目の前に大剣を立て、目をつぶり、大きく深呼吸を繰り返す。このボスを超えれば実質過去の最高到達深度に並ぶ。華年絆姫の名が街に轟くのだ。喪われてしまった二人の名誉のためにも絶対に勝たねばならない。
ソリスは大剣を風のように振り回し、一連の流れるような動作で基礎の型を舞った。その剣の軌跡は、まるで空中に絵を描くかのように、美しくも力強かった。
ヨシッ!
ソリスは大きくを息をつき、呼吸を整えると決意に燃えた目で重く大きな扉を押し開けていった。
◇
いつもと同じボスのフロア。壁の魔法のランプがポツポツと点灯していくが、広間の中央は黒く煤のようなもので煙っていてよく見えない。
ぼうっと黄金色の光を放つ大剣を前に構え、恐る恐る近づいて行くソリス――――。
煤の向こうで目がキラリと輝き、何者かがスタスタと近づいてくる。
ソリスは立ち止まり、大剣を構え直した。
しかし、現れたのは黒いローブをまとった黒髪ショートカットの背の低い女性……。
「おや、ソリス殿、遅かったでゴザルなぁ」
丸眼鏡をクイッと上げてニヤリと笑う、忘れられない笑顔……、フィリアだった。
ひっ!?
ソリスは首を振りながら後ずさる。
フィリアは死んだのだ。こんなところに居るはずはない。居るはずはないのだが、その声、話し方、そして眼鏡を上げる仕草まで本人そのものなのだ。
「何? こんな幻覚で私を謀れるとでも?」
そう言いながら、ソリスは大剣をカタカタと震わせてしまう。会いたかった仲間が目の前でこんなに生き生きと動いているのだ。例え幻覚だとしてもそれには抗いがたい魅力があった。こんな大剣など今すぐ捨てて駆け出したい。そんな想いを必死に振りはらおうとソリスはギリッと奥歯を鳴らした。
「幻覚? 何を言ってるでゴザルか。そしたら……イヴィットの好きだった男、教えちゃおうか? くふふふ……」
フィリアは、悪い顔をして口に手を当てながらとんでもないことを言いだす。
「お、お前何を言い出すんだ!」
ただの幻覚だと思っていたらとても幻覚とは思えない行動を取りだした。こんな幻覚なんてあるだろうか? ソリスはたじろいだ。
「ちょっと……。あなた……。そういうの、止めてくれる……?」
暗闇からまた一人やってきた。栗色の長い髪を後ろでくくった女性……。イヴィットだった。
ひっ!?
ソリスは後ずさる。それは死んだ時の緑色のチュニックをまとったイヴィットそのものだった。
「くふふふ……。だってソリス殿があたしらを死んだことにしてるのでゴザルよ」
「あたしは……、死んでない……。そう、また昔のように……」
イヴィットは穏やかな笑顔でソリスに手を差し伸べる。
「ちょ、ちょっと、あんたら何なのよ!!」
「さ、ソリス殿、また昔のように三人で仲良く暮らすでゴザルよ!」
フィリアも茶目っ気のある笑顔でソリスに手を伸ばした。
ここは地下三十階のボス部屋。フィリアもイヴィットもいるはずがない。明らかにボスの罠である。そんなことは分かっている。分かってはいるが、この二人の手を拒絶し、大剣で一刀両断にするなんてことはとてもソリスにはできなかった。
ソリスは穏やかな顔でゆっくりとうなずくと大剣を床に置き、幸せそうな顔で二人に両手を広げた。二人は嬉しそうに近づいてくる。
フィリアはちょっと照れたような顔をしてうつむき、イヴィットはニコッと笑う。
ソリスは二人をハグし、懐かしい二人の香りが鼻孔をくすぐった。
そう、そうだよ。これが自分の幸せなのだ……。ソリスはこの甘い時間をじっくりと味わう。自分の心は華年絆姫と共にある。それは一生変わらないのだ。ソリスは涙ぐみながら二人を抱きしめる。
刹那、無数の風を切る音が広間に響く……。
ゴフッ!
ソリスは盛大に血を吐いた。飛んで来た無数の漆黒の短剣がソリスを貫いたのだ。
「くふふふ……、お馬鹿さんっ!」
漆黒のゴシックロリータをまとった真っ白い肌の少女が、黒い霧の中にふわりと浮かび上がり、楽しそうに笑った。
全身を貫く激痛の中、幸せそうな笑顔を見せながら床へと崩れ落ちるソリス。
フィリアもイヴィットも霧のように消え去り、ソリスの哀れな血が静かに床板を赤く染め上げた。
いい夢を見た……。ソリスは今わの際に今までで最高の死に方だったと、満足げにほほ笑んだ。