死ねばレベルアップ! 行き詰ったアラフォーがなぜか最強少女に!? 第二の人生で目指す究極のスローライフ
53. 今日は恵比寿
えっ!?
ソリスは気がつくと朝もやのけぶる石畳の道に立っていた。慌てて自分の顔をなでてみればやや張りのない懐かしい手触り……。アラフォーの人間に逆戻りしている――――。
「ソリス殿〜! どうしたでゴザルか?」
黒髪ショートカットの丸眼鏡をかけたフィリアは、杖を持ち替え、けげんそうな顔でソリスをのぞきこむ。
「あっ! フィ、フィリア……。本物……なの?」
ソリスは恐る恐るフィリアの丸眼鏡の向こうの、ブラウンの瞳に見入った。
「ほ、本物? 拙者に偽物がいるってことでゴザルか!? ちょっとー! イヴィット聞いたー?」
フィリアは面白いネタを見つけたとばかりにイヴィットに振る。
「フィリアの偽物……。会ってみたい……」
イヴィットはキョトンとした様子で小首をかしげた。
「あ、会ってみたいってどういうことでゴザルか! もぉ~」
フィリアは杖でイヴィットのお尻を軽くパシッとたたく。
ソリスは二人の漫才のような生き生きとしたやり取りに、懐かしさがグッとこみあげる。
「良かった……」
二人に駆け寄ると、両手で優しく抱きしめ、ポロポロと涙をこぼすソリス。
二人が死んで、自分も何度も死んで、絶望の旅を超えてようやく巡り合えたかけがえのない友達――――。
ソリスはその数奇な旅路を思い出しながら、次々と溢れてくる涙でほほを濡らした。
突然泣き出したソリスを見て、二人は戸惑いの表情を浮かべる。それでも、二十数年来の親友の尋常じゃない様子に、そっとソリスの背をやさしくなで、ソリスの想いに寄り添った。
◇
「落ち着いたでゴザルか?」
「ゴメンね……」
ソリスはハンカチで涙をぬぐいながら、フィリアの手をギュッと握った。
「で……、今日もダンジョン行くでゴザルか?」
フィリアはいつもとは違うソリスの様子に調子が狂い、プイとそっぽを向いた。
「ふふっ、もうダンジョンはいいのよ。今日は恵比寿よ」
ソリスは満面に笑みを浮かべて言った。
「恵比寿……?」
フィリアは初めて聞く地名に、けげんそうな顔でイヴィットと顔を見合わせた。
「そう、今日は焼肉パーティなのよ」
「や、焼肉!? 贅沢は敵でゴザルよ!」
フィリアはもう何年も食べていない高級料理におののき、思わず後ずさる。
「大丈夫、これからは伸び伸びと好きなもの食べて生きるのよ」
ソリスは晴れやかな顔で空を見上げた。
「ソリス殿! そんな夢みたいなことばかり言ってたらダメでゴザル!! 慎ましくがあたしらのモットーでゴザルよ?」
焦ったフィリアはソリスの腕をガシッと握って揺らす。
「大丈夫だって。ほら、お迎えよ……」
ソリスは澄み通る朝の青空を指差した。そこには朝日をキラリと反射しながらシャトルが気持ち良さそうにゆったりと旋回していく。
「へ……? な、何でゴザルか!?」「す、すごい……」
初めて見る宇宙船、その異次元からやってきた空間を斬り裂くような鋭い翼の機体に、二人とも目を丸くして驚いた。
ソリスは大きくシャトルに向かって手を振ると、シャトルは急旋回して一気にソリスの方へと突っ込んでくる。
「こ、こっち来るでゴザルよ!」「逃げないと……」
青くなる二人。
「大丈夫よ、私の素敵な師匠なんだから」
ニコッと笑うソリス。
やがて三人に急接近したシャトルは上空をドン! という衝撃音を放ちながらものすごい速度で通過して行った。
うひぃ! ひゃぁ!
ソリスは楽しそうに好き放題しているシアンに苦笑しつつ、一気に急上昇していくシャトルを目で追った。
◇
近くの広場に着陸したシャトルは銀色の機体に朝の青空を映し、鮮やかに煌めいていた。
「ほ、本当にこれに乗るでゴザルか……?」
フィリアはソリスに手を引っ張られながら心配そうに聞いてくる。
「ふふっ、思ったより乗り心地いいのよ?」
得意げに話すソリス。ミサイルがかすめて死にそうになっていたことは秘密にしておいた方が良さそうだ。
「乗り心地は聞いてない……」
イヴィットも弓をギュッと握りしめながら、心配そうに二人に続いた。
街の人たちは一体何が起こったのかと物陰から恐る恐る覗いている。
コクピットには青い髪の女の子が手を振っていて、ソリスも振り返した。
よく考えると、シアンに人間の姿を見せるのは初めてだった。可愛い子ネコからアラフォーの姿に変わった自分を見て、シアンがどう思うのか、不安がソリスの心に影を落とす。ソリスはその不安に押しつぶされまいと口をキュッと結んだ。
キュィィィィィン。
船体から自動でタラップが降りてきて、バシュッとドアが開いた。
ソリスが一歩一歩タラップを登って行くと、野次馬からどよめきの声が上がった。
振り向くと、幻精姫遊のメンバーが目を丸くしてソリスたちを指差している。
ソリスはニヤッと笑うと、投げキッスを彼女たちに送ってウインクした。うだつの上がらないおばさんたちだと馬鹿にしていた相手が、遥か高みにいる存在と縁がある。それは彼女たちにとって相当に悔しいようだった。
ソリスは気がつくと朝もやのけぶる石畳の道に立っていた。慌てて自分の顔をなでてみればやや張りのない懐かしい手触り……。アラフォーの人間に逆戻りしている――――。
「ソリス殿〜! どうしたでゴザルか?」
黒髪ショートカットの丸眼鏡をかけたフィリアは、杖を持ち替え、けげんそうな顔でソリスをのぞきこむ。
「あっ! フィ、フィリア……。本物……なの?」
ソリスは恐る恐るフィリアの丸眼鏡の向こうの、ブラウンの瞳に見入った。
「ほ、本物? 拙者に偽物がいるってことでゴザルか!? ちょっとー! イヴィット聞いたー?」
フィリアは面白いネタを見つけたとばかりにイヴィットに振る。
「フィリアの偽物……。会ってみたい……」
イヴィットはキョトンとした様子で小首をかしげた。
「あ、会ってみたいってどういうことでゴザルか! もぉ~」
フィリアは杖でイヴィットのお尻を軽くパシッとたたく。
ソリスは二人の漫才のような生き生きとしたやり取りに、懐かしさがグッとこみあげる。
「良かった……」
二人に駆け寄ると、両手で優しく抱きしめ、ポロポロと涙をこぼすソリス。
二人が死んで、自分も何度も死んで、絶望の旅を超えてようやく巡り合えたかけがえのない友達――――。
ソリスはその数奇な旅路を思い出しながら、次々と溢れてくる涙でほほを濡らした。
突然泣き出したソリスを見て、二人は戸惑いの表情を浮かべる。それでも、二十数年来の親友の尋常じゃない様子に、そっとソリスの背をやさしくなで、ソリスの想いに寄り添った。
◇
「落ち着いたでゴザルか?」
「ゴメンね……」
ソリスはハンカチで涙をぬぐいながら、フィリアの手をギュッと握った。
「で……、今日もダンジョン行くでゴザルか?」
フィリアはいつもとは違うソリスの様子に調子が狂い、プイとそっぽを向いた。
「ふふっ、もうダンジョンはいいのよ。今日は恵比寿よ」
ソリスは満面に笑みを浮かべて言った。
「恵比寿……?」
フィリアは初めて聞く地名に、けげんそうな顔でイヴィットと顔を見合わせた。
「そう、今日は焼肉パーティなのよ」
「や、焼肉!? 贅沢は敵でゴザルよ!」
フィリアはもう何年も食べていない高級料理におののき、思わず後ずさる。
「大丈夫、これからは伸び伸びと好きなもの食べて生きるのよ」
ソリスは晴れやかな顔で空を見上げた。
「ソリス殿! そんな夢みたいなことばかり言ってたらダメでゴザル!! 慎ましくがあたしらのモットーでゴザルよ?」
焦ったフィリアはソリスの腕をガシッと握って揺らす。
「大丈夫だって。ほら、お迎えよ……」
ソリスは澄み通る朝の青空を指差した。そこには朝日をキラリと反射しながらシャトルが気持ち良さそうにゆったりと旋回していく。
「へ……? な、何でゴザルか!?」「す、すごい……」
初めて見る宇宙船、その異次元からやってきた空間を斬り裂くような鋭い翼の機体に、二人とも目を丸くして驚いた。
ソリスは大きくシャトルに向かって手を振ると、シャトルは急旋回して一気にソリスの方へと突っ込んでくる。
「こ、こっち来るでゴザルよ!」「逃げないと……」
青くなる二人。
「大丈夫よ、私の素敵な師匠なんだから」
ニコッと笑うソリス。
やがて三人に急接近したシャトルは上空をドン! という衝撃音を放ちながらものすごい速度で通過して行った。
うひぃ! ひゃぁ!
ソリスは楽しそうに好き放題しているシアンに苦笑しつつ、一気に急上昇していくシャトルを目で追った。
◇
近くの広場に着陸したシャトルは銀色の機体に朝の青空を映し、鮮やかに煌めいていた。
「ほ、本当にこれに乗るでゴザルか……?」
フィリアはソリスに手を引っ張られながら心配そうに聞いてくる。
「ふふっ、思ったより乗り心地いいのよ?」
得意げに話すソリス。ミサイルがかすめて死にそうになっていたことは秘密にしておいた方が良さそうだ。
「乗り心地は聞いてない……」
イヴィットも弓をギュッと握りしめながら、心配そうに二人に続いた。
街の人たちは一体何が起こったのかと物陰から恐る恐る覗いている。
コクピットには青い髪の女の子が手を振っていて、ソリスも振り返した。
よく考えると、シアンに人間の姿を見せるのは初めてだった。可愛い子ネコからアラフォーの姿に変わった自分を見て、シアンがどう思うのか、不安がソリスの心に影を落とす。ソリスはその不安に押しつぶされまいと口をキュッと結んだ。
キュィィィィィン。
船体から自動でタラップが降りてきて、バシュッとドアが開いた。
ソリスが一歩一歩タラップを登って行くと、野次馬からどよめきの声が上がった。
振り向くと、幻精姫遊のメンバーが目を丸くしてソリスたちを指差している。
ソリスはニヤッと笑うと、投げキッスを彼女たちに送ってウインクした。うだつの上がらないおばさんたちだと馬鹿にしていた相手が、遥か高みにいる存在と縁がある。それは彼女たちにとって相当に悔しいようだった。