廃墟に居ないでよ。
嫌。
廃墟の扉の前に立つ。開き戸だ。学校の屋上扉みたい。特別オシャレでもないし、質素な玄関扉。
「さ、さや?カ、カメラちゃんと撮ってるよね?」
「撮ってるよ。」
間髪入れずにさやが言う。
「さ、さや?ちゃんと着いて来てね?」
「着いてくよ。」
また、間髪入れ入れずに言う。
「さ、さや?」
「なに?」
不安になって、名前を呼んだだけだったから、聞きたいことは別になく
「な、何でもない。」
と返事をする。
「カップルかよ。」
後ろからさやの乾いた笑いが聞こえてきた。
もしもの時に使うビデオカメラがカバンの中にしまってあるのを確認する。
「さや。行くよ。入るよ。入る。本当に入る?」
あまりにこの中に入りたくなくて、語尾が疑問形になる。
「はよしろ」
と後ろから手が伸びてきて、さやと一緒に扉が開かれた。
キーと不快な音が響く。中は真っ暗。
すぐさま懐中電灯を付ける。カチッと付けると目の前だけ明るくなった。
「け、結構明るいねこの懐中電灯。ね?さや」
歩きながら言う。
「...」
声がしない。
あれ、いつもは返ってくるのになんで。
慌てて後ろを振り返る。
と
「はは。振り返るのが早いよー。もうちょっと1人で探索させようと思ったのに。」
笑ってビデオカメラを向けているさやがいた。
「お、」
小さな声で呟く。
「お?」
さやが次の言葉を促すように言う。
「鬼ーーーー!!!」
さやの鬼!鬼畜。返事がなくて本当に驚いたのに。
「怒った!さや心がないよ。今度、さやに道徳の教科書貸してあげるよ!」
「あはははは。」
すごく笑ってる。何が面白いんだろう。
欠けた月が辺りを照らし、廃墟内が明るくなっていった。
「いいこと思いついた。」
小さいな声で呟く。
私は右の通路を急に走った。
「ちょっと?!レイ?!」
さやは笑い涙を拭のをやめ、驚いた声をあげる。
私は走りながら、そして、口角を上げながら、声を張って言う。
「私ー、さやも実は肝試し得意じゃないこと知ってるからー」
「嘘でしょ!レイ!いやー」
さやの叫び声が聞こえる。
私はより声をあげて、
「2人の方が効率いいからー!早く終わるからー!」
と言った。
「レイーーー!」