美形義兄×5! ~人間不信な姫の溺愛生活~

新・家族

「雫宮、お前は皐月家というところに引き取られることになった。すぐに用意をしなさい。明日には発ってもらうぞ」
久しぶりに会った父から言われた、最初の言葉はそれだった。
突然の離婚と再婚。
新しくできた義母と義姉。
実父とは違って愛情を注いでくれているのかもしれないけど、私を嫌っている父のせいで私は『感情』というものが体内から消え失せていた。
私・雅悶雫宮(がもんしずく)、中2は簡単に言うと人間不信だ。
なにを言われてもなにもなにも感じないし。
「・・・わかった」
父から離れられる・・・。
義姉の琴厘(ことり)琴南(ことな)は私にいろいろなものをくれた。
義妹なのに意地悪とかしなかったし。
でも・・・そんなことどうでもよくなるほど、私は父に嫌われていた。
それなら・・・この家を出て行く他無いし。
                                                                
──コンコンコン──
                                                                   
「はぁい」
気の抜けた返事があって私は短く言った。
「・・・雫宮です」
「あらぁ、雫宮ちゃん!いらっしゃぁい、来るなんて珍しいじゃないのぉ。どうしたのかしらぁ?」
この口調は決して、相手を煽っているわけじゃない。
・・・緊張感がない、というか。
この人が義姉で長女の琴厘。
非常にふんわりとしたマイペース女子だ。
「ん?雫宮じゃないか。訪ねてくるなんて珍しいこともあるな」
この人が義姉で次女の琴南。
琴厘とは真逆で、サバサバした感じの女子。
「・・・失礼」
私は普段、敬語を使わない。
めんどくさいし、敬語を使って感じをよく見せようとか思わないし。
1度話した人とはもう2度と話さない。
だからマナーとか最低限のコトしかする必要ないと思っている。
「・・・報告」
それだけ言うとなにか勘付いたのか。
2人の顔が険しくなった。
「・・・家、出て行く。養子縁組、組んだ」
「・・・え?」
「ヨーシエングミ・・・?は、養子縁組?!お義父さんが組んだのか?」
「・・・組んだ。明日、家、出る。コレ、最後、挨拶」
私は表面上の勉強はできる。
・・・いや、勉強だったら超応用でも出来るんだけど。
人と喋るのは幼児レベルだ。
「・・・雫宮ちゃんはソレで幸せになれるのかしら?」
「・・・父、離れられる。幸せ?なれる?」
「なれるだろう。雫宮は家を出て行きたいのか?」
重ねるように琴南が訊いてきて、私は無表情のまま告げる。
「・・・幸せ、感じない。出て行きたい、思わない。家に居たい、思わない」
「どっちでも無いのねぇ・・・明日来るんでしょう?私もお義父さんから雫宮ちゃんへの態度はだめだと思うの。養子縁組のお相手を見て私は判断するわ」
「私もそーするー。で、余りにもひどかったら姉妹だけで3人暮らししよ!」
3人暮らし・・・私は2人に迷惑をかける?
だったら・・・相手がどんなんでも受け入れる。
そもそもどんな人でもなんにも思わないし。
「・・・今まで、世話、なった。感謝?」
こういう時、なんて言うのか。
                                                                      
『今までありがとう』
                                                                       
分かっているけど、ソレは言えるかどうかは違う。
「・・・雫宮ちゃん!あぁ、離れたくないわぁ・・・」
「・・・準備、する。部屋、行く」
「・・・そっけないねぇ・・・。ま、いーよ。幸せになれるといーね」
2人は笑顔(?)で見送ってくれ、私は数少ない荷物を小さなカバンに入れて、部屋で寝た。
まだ時間は午後の4時。
私はいつも、夜に活動をする。
だから寝るの久しぶりだなぁって。
その夜になにをしているのか・・・今は家を抜け出している、ってコトだけ。
私がホントの自分になれる場所。
私を大切にしてくれる人がいて。
私に優しく接してくれる人がいて。
私は・・・その場だけで、笑っている。
腹を抱えて大笑いってわけじゃない。
でも私は普段、大笑いどころか微笑すらしないから。
ソコ(●●)では笑える。
小さい笑みでも、心から笑える。
私がこの世で唯一心を開く場所。
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