美形義兄×5! ~人間不信な姫の溺愛生活~

零兄の躾け

「おはよー!子猫ちゃん!」
朝、リビングに行くと零兄の声が聞こえた。
子猫ちゃん・・・この家には猫がいるのか。
私も猫に対してだったら可愛いと思えるだろうか。
「もー無視しないでってば」
どうやら猫は気まぐれらしい。
「雫宮ってそーゆーの通じない?」
「・・・ん・・・?」
・・・子猫とは私のコトなのか。
ぶん殴っていい?
「雫宮、今日から僕の躾が始まるよ!僕仕様に躾けてあげるから楽しみにしてて!」
元気にそう宣言した零兄。
「・・・私はなにをすれば」
「僕の言うとおりに動いてくれればいいから!」
言うとおり、に・・・。
私はそんなにいい子だろうか。
自分で思うには手に負えない猛獣だけれども。
「んふふ、まぁ分かるよ!まずは朝ごはん食べよ?」
義兄も全員揃っていて、私は自分の席に着く。
「いただきまぁす」
パチッと手を合わせ、零兄はパンケーキを口に運ぶ。
「ふふ、いただきます」
そんな零兄を微笑ましそうに見て、毬兄がフレンチトーストを食べた。
「いただきます」
鈴兄はニコニコしながらヨーグルトに手を伸ばす。
「・・・いただきます・・・」
今日も気だるげな朔兄は眠そうなトロンとした瞳で紅茶を啜った。
「・・・いただきます」
皇兄は無表情で呟く。
「・・・いただきます」
私は両手を合わせて深く頭を下げる。
「熱心だね」
毬兄に話しかけられ、私はチラリとそちらを見てからぼそりと言った。
「・・・食べ物があるのは、ありがたいから」
ご飯、水、空気はなくてはならない。
私が感謝しようと思えるのは、これくらいだ。
「いい子だね」
隣に座っていた鈴兄に頭を撫でられ、私は首を動かして手を動かす。
昨夜の気まずさはなく、ポーカーフェイスの上手さに驚いたりしていた。
「雫宮」
ふいに朔兄に話しかけられ、私はそちらに視線を向ける。
朔兄とは一番話していないから、静かな人、という認識しかない。
「・・・今日も、夜出かけるの?」
「・・・よる。・・・たぶん」
朝だからか呂律が回らない。
私は毎日夜にアジトに行ってるし、行かなかったコトはない。
しかも皐月兄弟には公言してあるし、問題は無いし、バレるとかの。
「・・・あいつらに、会いに行くの」
疑問形から確信形に口調が変わる。
「殺夜と涙悪・・・主に2人に」
そう答えると、朔兄は正面から私を見つめてきた。
「・・・俺とじゃ、駄目なの」
心なしか、グレーの瞳が潤んでいるように見える。
「・・・朔兄と。・・・夜以外なら、過ごす」
「・・・・・・約束」
朔兄は私の言葉を聞き、もう一度紅茶を啜った。
「いや、朔冴がねぇ・・・雫宮は凄いね」
毬兄がなぜか私を見て苦笑する。
すごい、か。
「ちょっと朔冴!今日から雫宮は僕の躾を受けるの!」
「・・・雫宮が決めるコト」
「ふぅん、いいんだ?雫宮が可愛くなるのになぁ・・・」
「・・・午前は、俺の時間」
一瞬で朔兄が折れ、2人の言い争うは数秒で収束した。
「皇兄、皇兄」
私はずっと黙ったままの皇兄の服の裾をチョンチョンと引っ張る。
「・・・ん・・・?」
皇兄は意外そうに首を傾げ、私はそれをまねして首を傾げた。
「皇兄は私が夜に出掛けるの、反対?」
「・・・俺個人の意見だけど」
皇兄はちらっと窓の外を見てから口を開く。
「昨日の朝、会った2人はとてつもなく強い。雫宮も強い。だから、心配なしてない」
そう言い切った後、皇兄は黄色の瞳を揺らした。
「・・・でも、雫宮がほかの男と過ごしてんのを見るのは、・・・つらい」
そう言って額を押さえた皇兄に頷き、私は無言で朝食を再開した。
・・・皇兄は、きっと他意なく私を心配してくれている。
『信頼に値する義兄は存在(いる)か』と訊かれたら、私は真っ先に『皇兄』と答えるだろう。
それだけ・・・皇兄は信頼できて安心できて・・・私に向けてくれる感情が、心地よく感じた。
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