美形義兄×5! ~人間不信な姫の溺愛生活~
「・・・雫宮」
朝食を終えたとき、朔兄が手招きをしてきた。
「・・・ん・・・」
言われるまま(?)朔兄に近づくと。
「・・・雫宮、俺の」
ソファーに座る朔兄に腕を引かれ、抱きしめられた。
ソファーに脚を乗せた小さくなる朔兄。
そんな朔兄に抱きしめれる私。
怒られた子供がぬいぐるみを抱きしめているみたいな光景だ。
「雫宮・・・んぅ」
肩口に顔がうずめられ、首筋に舌が這う。
「・・・朔兄?」
動きが昨夜の鈴兄みたいだ。
「甘い・・・」
そう呟きながら朔兄は頭を動かす。
サラサラの髪が顔に当たってくすぐったい。
「首がこんなに甘いなら・・・唇はもっと甘い、よね・・・?」
唇?
思わず首をかしげると、それを真似して朔兄も首を傾げた。
デジャヴだ、さっきのは皇兄だったけど。
「・・・いい・・・?」
「・・・いい、とは」
なにがだろう、と考える。
私は人よりも理解能力が高いから大体のコトは理解できるんだけど・・・。
朔兄が体をグッと倒して顔を近づけてくる。
ゆっくりと避けると、近づいてきた顔──主に唇──は私の頬に当たった。
ちゅ、と音を立てて唇が離れる。
体を起こした朔兄の顔をじっと見つめていると、その顔がこちらを向く。
そして、目が合った瞬間、私は息をのんだ。
「・・・朔、兄・・・?」
「・・・雫宮は・・・」
その顔はすごく、泣きそうで。
「雫宮は、俺にくれないの」
クシャッと顔をゆがめていて。
「俺より、夜の奴らのほうがいいの」
痛々しくて、見ていられなくて。
「・・・なんで、なの」
必死んに縋るように私を見つめていた。
運がいいのか悪いのか、義兄たちはだれ一人ココにいない。
そして、私は朔兄が代わってしまったコトを感じた。
「俺だったら・・・」
苦痛に歪んでいた朔兄の顔はもうない。
「雫宮のコト、満足させてあげられる」
口角は不格好に上がっていて。
グレーの瞳は怒りと自嘲を宿していて。
纏う雰囲気は、儚いものから冷たいものへと変化していた。
私は──・・・この朔兄が、好きじゃない。
自分の好き嫌いで()るのはどうかと思うけど。
「・・・ごめんなさい」
「ん?」
「私は、今の朔兄を好きになれない」
そう謝った後に、私は朔兄の首の側面を打った。
「・・・っ」
朔兄はしまった、と言わんばかりの顔でソファーに倒れ込む。
「・・・ちゃんと、運ぶから」
昨夜の鈴兄と同じように横抱きにし、朔兄を部屋のベッドに運ぶ。
「怒らないで、ね」
そっと髪をひと撫でして、私は部屋を出た。
デジャヴだなぁ・・・(本日2回目)と思いながらも、リビングに戻る。
「あ、ちょーど1階下がってきたんだけどー・・・って朔冴は?」
「・・・部屋に」
「ふーん・・・じゃあ躾け始めちゃおっか?」
リビングの椅子には零兄が座っていて、楽しそうに口角を上げる。
「・・・私は、なにをすれば」
「んっとねー、これに着替えてきて!」
メイクもねー!と笑う零兄が差し出してきたのは・・・。
「・・・ドレス?」
「そう、ドレス!このシフォン生地がお気に入りなんだぁ。いつか雫宮に着てほしかったんだよね」
紫から青、水色、白へとグラデーションになっているドレス。
「・・・私はメイクしたことない」
「だいじょーぶ!メイドに頼むから!」
そう言った零兄に従うように出てきた3人のメイドさん。
「雫宮に一番似合うメイクとヘアセットしてきて!」
「かしこまりました、葦零若様」
メイドさんは零兄に一礼すると私を連れて近くの個室に入った。
鏡と椅子、あと大きなスペースにアクセサリーの棚。
化粧室、ですかね?
「雫宮嬢様、下着以外お服を脱いでいただいて、こちらのドレスを・・・」
メイドさんが手に持ちドレスを一瞥し、私は小さく頷いた。
なんでこんなコトに・・・。
躾けにドレスが必要ってコトは・・・パーティとかの作法とか?
一応養子縁組で私は皐月家の娘になったわけだし、作法がちゃんとしていないと恥になる。
そっか、と皐月家側の考えに納得しておとなしくドレスに体を通す。
・・・だが、事件が起こった。
「なんてことでしょう!雫宮嬢様、細すぎです・・・!美しすぎるくびれですが痩せ過ぎではありませんか・・?」
メイドさんが私の下着姿を見て発狂したのだ。
あぁ、そういえば私って太らない体質だったけ。
大食い番組からすれば欲しい人材だ。
「まぁまぁ、どれすの紐を縛ればいいでしょう」
年配のメイドさんが苦笑しながら提案する。
美容系には興味がないから、全部お任せするコトにした。
ふんわりとしたドレスの後ろになる紐を引っ張られる。
きつい、というコトはなく、むしろありがたかった。
私は平均以上の身長と釣り合わない体重をしているらしく。
身体測定で先生を心配させたような。
ぶかぶかだったドレスは紐によって体にフィットし。
「・・・」
・・・それだけで終わるはず、ないよね。
「なんて艶のある御髪!この金のような銀のような御髪は素晴らしい光沢が・・・」
「・・・はい」
食リポうまそうだな・・・というのが私の感想であります。
「こちらの髪飾りはどうでしょう?邪魔にならない程度の大きさですし、いいじゃないですか?」
「・・・はい」
さっきから返事ははい、しか言っていない。
メイドさんが出してきたのは鮮血のような赤のもの。
その髪飾りで髪を緩く纏められ、メイドさんは一気にやる気いっぱいに。
「さぁ、これからが私たちの見せ場です!」
そっか、メイドさんが主にするのはメイク・・・。
逃げられそうにはないな・・・。
「こちらのアイシャドウはどうですか?」
「チークはこれくらいの濃さの・・・」
「アイラインはこの色が瞳の色に合うと思います!」
「まつげ長いですねぇ・・・」
最後のセリフはメイクに関係ない(?)と思うんだけど・・・。
「・・・さっ、嬢様、できましたよ!」
メイドさんに優しく背中を押され、私は化粧室(仮)と出る。
「あ、雫宮可愛い~!」
すぐに私に気づいた零兄が席を立って寄ってきた。
「・・・なにをする、の?」
「ん-?ちょっと言うとおりにしてほしくてぇ」
零兄は意味深に笑うと、私をソファに座らせた。
そして、隣に座った零兄に持ち上げられる。
「わ、軽・・・」
心配そうな目で見つめられ、身体測定の時の先生を思い出した。
膝に乗った私を抱きしめ、頬ずりをする。
「じゃあ始めようか」
零兄は、そう言って大人っぽくニヤリと笑った。
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