天才外科医は仮初の妻を手放したくない
「皆が怪しく思わないように、君は俺と一緒に暮らしてもらう。…まぁ心配するな、俺は外科医で忙しくほとんど家にいることは無い。せいぜい睡眠をとるためくらいのものだ。…よろしく、奥さん。」

西園寺はとんでもない事を言い出している。
一緒に住むなんてありえない事だ。

「そ…そんな…それでは私の仕事はどうなるのですか…そんな勝手に決めないでください！」

すると西園寺は先程までと急に態度を変えたのだ。
なんとソファーから立ち上がり、私の横に近づき、両膝を床に着いたではないか。

「本当に君にはすまない事をお願いしていることは理解している。しかし、もう君にしかお願いが出来ないんだ。この通りだ条件を飲んでくれないか。」

彼は床に膝を着いたまま深々と頭を下げたのだった。
こうされると私は弱いのだ。

「…西園寺さん、頭を上げてください。…では、本当に期間限定での約束でお願いします。仕方ないですよね。」

またまた私の悪い癖が出てしまった。
昔から頼まれると、どうしても断ることが出来ないのが私の悪い癖だ。
これで何度損をしたか分からないのに、懲りない自分が嫌になる。

すると西園寺は両手で私の右手を掴んだ。


「ありがとう…澪。それから、俺のことは陽斗と呼んでくれ。澪も西園寺になるのだからな。」

後からわかった事だが、陽斗が結婚した事を病院に申告しなくてはならないために、本当に婚姻届けを出す必要があったのだ。
病院内には西園寺を良く思っていない者もいるらしく、なにか怪しい事があればすぐに足を引っ張ろうとするらしい。

仮初ではあるが、陽斗の正式な妻になってしまうのだ。



< 10 / 141 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop