天才外科医は仮初の妻を手放したくない
病院船の運航も軌道に乗って来て、今は病院バスに力を入れている。
少しずつ陽斗の理想とする医療も形になって来ていた。
最近では陽斗の考えに共鳴する若者も増えて、陽斗は定期的に一般人向けの勉強会も行っていた。
勉強会には熱心な医大生も多く、陽斗は教えるのが楽しくなって来ているようだった。
そして、今回の勉強会は、病院バスに実際に乗って3日間の実習を体験すると言うものだった。
今回の参加者は男性が3名で女性が1名だった。
陽斗は女性が1名だと、何かと問題が起きそうだからと私も同乗することになったのだ。
雫は今回も西園寺本家にお泊りだ。
出発前に陽斗が全員の紹介をした。
「今回の参加者は男性が3名、女性が1名、男性は、高橋、相葉、浅田の3名です。女性は、森本 愛(もりもと あい)さんとなります。今回はいろいろな手伝いをしてもらうために私の妻である澪も参加させていただきますね。運転手や医療技師はプロの方々にお願いしているので安心してください。それでは楽しい勉強会にしましょう。」
皆がパチパチと拍手をする中、女性の森本はなんだか不機嫌そうなのが気になった。
今回の課題になるプリントを配った時だった。
森本が動き出したのだ。
「何か質問があれば個々に来るように」と陽斗が言うと、森本は課題のプリントを持って陽斗の所へ質問に行った。
私は心の中で、これは陽斗狙いなのだと考えていた。
でも、大学生の森本がすることは可愛い事だろう油断したのだった。
「西園寺先生、課題について質問なのですが、」
森本は陽斗に質問しながら、陽斗のすぐ横に座ったのだった。
そして、質問をするごとに陽斗の太腿に手を置いて話をするのだ。
これには陽斗も気になったらしい。
「森本君、質問は僕の前に座ってくれないかな、説明がしずらいからね。」
「…はーい。」
明かに気だるい返事である。
他の男性3人はとても真面目だった。
3人とも外科医を志望しているだけに陽斗に憧れているのだろう。
今回は、3日間の勉強会の為、邪魔にならないように陽斗と別の部屋を用意してもらったのだ。
勉強会は深夜まで続いていたようだ。
私は先に部屋で休ませてもらう事にした。
その日の深夜、私はトイレのために部屋を出た。
すると、廊下には森本がたっていたのだ、
私は何気なく森本へ声を掛けた。
「森本さん、どうしましたか?」
森本は私の呼びかけに対して、ギロリと睨むような目をしたのだった。
私は恐くなり、思わず肩をすぼめるほどだった。
2日目の研修会が始まった。
森本が睨んだ恐い目を思い出したが、勉強会は普通に進んだのだった。
あの時はたまたま機嫌が悪かったのだろうか。
今日の森本は胸元が深く開いたブラウスを着ている。
森本は胸元を大きく開けて陽斗の前に座り質問をするのだった。
ここまでくると可愛いでは済まされない気がするのだった。