天才外科医は仮初の妻を手放したくない

「さ…西園寺…いいや、は、は、陽斗さん。いつのまにいらしたのですか?」

挨拶を終えて陽斗に驚きを伝える。
陽斗は急いで駆け付けたようで、首からは医師の名前が入ったカードを下げたままだった。
白衣を脱いでそのまま来たようだ。

「今日は澪の引っ越しだからな。夫としてこれくらいはするのが当たり前だろ?遅くなって悪かったな。」

陽斗はわざわざ私の引っ越しのために来てくれたようだ。
これには少し驚いた。

「陽斗さん、忙しいのにありがとうございます。」

「お…おう…礼を言われることじゃないぞ。」

私が真面目に御礼を伝えると、陽斗は意外にも照れているように見える。
なんだか知らない一面を見たように感じた。


引っ越し先は陽斗の住んでいるマンションだ。
新居を探す暇がなく、とりあえず陽斗が住んでいたマンションで同居することになる。

しかし、陽斗が住んでいるマンションは、とても一人暮らしとは思えない。
見るからに豪華なマンションである。

都会の高台にあるマンションの周辺は、とても静かで整備された公園もある。
その最上階に陽斗は住んでいるという。

最上階へエレベーターで昇ると、その正面にドアがある。
このフロアーは陽斗の部屋だけになっているそうだ。

想像以上に豪華なマンションだった。

ドアを開けると、広い玄関、そしてその奥には大きく開放感のあるリビングが広がっていた。

とても綺麗に掃除されている室内は、どうやらクリーンスタッフがいて定期的に掃除してくれているようだ。

陽斗は私に向かって笑顔を向けた。

「今日からここは澪の家だ。好きに使ってくれ…ただし一番奥の俺の部屋は絶対に開けないでくれ。」

確かに自分の部屋は人に見られたくないものだ。
しかし、陽斗は自分の部屋を開けるなと言うところだけ、かなり言葉に力が入っていた。
絶対に入ってはいけない部屋のようだ。



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