天才外科医は仮初の妻を手放したくない
森本は下を向いたまま何も言わなくなってしまった。
さらに陽斗は言葉を続けた。
「まさかと思うが…その男から森本はお金を取られたりしていないだろうね?」
森本は下を向いたままだったが、小さく頷くのだった。
陽斗は少し声を荒げて森本に伝えた。
「森本、しっかりしろよ。お前は可愛いのだからそんな悪い男に振り回されることは無い。もっと自分を大切にしてくれ。」
それだけ言うと、陽斗は私の手を引いてその場から歩き出した。
私はなんだか、あの森本という子が可哀そうで仕方ないが、きっと彼女は彼女なりにその男を愛しているのだろう。
人の幸せはさまざまだから、もしかしたら彼女にとって彼といることが一番幸せなのかも知れない。
いろいろと考えながら、私は陽斗の手をギュッと握るのだった。