天才外科医は仮初の妻を手放したくない
「雫、ただいま!」
陽斗と私は西園寺の本家の玄関で大きな声を出した。
すると、中からパタパタと音を立てて雫がはしってくるのだ。
「パパ、ママ、お帰りなさい。」
雫に続き、お義父さんとお義母さんが玄関に出て来た。
「あら、早かったわね。これから雫ちゃんと夕ご飯を食べに行こうとしてたのよ…あなた達も一緒にどうかしら。」
カコーン
鹿威しが清々しい音を立てている。
ここは西園寺家御用達の料亭なのだ。
ここの女将は何も言わなくても西園寺家の好みは分かっている。
最近では、澪のデータも加わっているらしい。
「はい、雫ちゃん、リンゴのシャーベットですよ。」
生のリンゴをくり抜いて作ったシャーベットは絶品である。
お義母さんは、雫の顔を見ながらニコニコと笑顔をつくっている。
よほど可愛いのだろう。
すると、お義母さんはとんでもない事を私達に言ったのだった。
「あなた達。もしかして夫婦仲が悪いの?」
陽斗が驚いて声を出す。
「なんで、そんなこと言うんだよ。」
するとお義母さんがはすごい事を言うのだった。
「雫の弟か妹はまだなのかしら。」
私達は食べていたものを吹き出しそうになった。
「澪さんも出産は早いうちに限るから、頑張ってちょうだいね。」
二人は同時に返事をした。
「善処します。」