天才外科医は仮初の妻を手放したくない
陽斗が家の説明をしていると、陽斗のポケットに入っていた携帯電話がいきなり大きな音を出した。

「はい、西園寺だ。…わかった。すぐに戻る。」

どうやら電話は病院からのようだった。
病院から緊急の連絡が入ったのだ。

陽斗は少しすまなそうな表情をして私に伝えた。

「澪、悪いが病院から呼び出しだ。どうやら緊急オペになるらしい。今日は戻れないかも知れないが、ゆっくりしていてくれ。」

「はい、私のことは気になさらないでください。行ってらっしゃいませ。」

陽斗は右手を軽く上げると、すぐに部屋を飛び出してしまった。
医師とは大変な職業なのだとつくづく感じる。

陽斗が家を出て行ってしまったので、私は一人で家の散策を始めた。

この家には一人暮らしなのに、5つの部屋がある。
その一つは陽斗が言っていた開けてはいけない部屋なのだ。

開けてはいけない部屋の隣には、メインのベッドルームがあり、おそらく陽斗が使っているベッドなのだろう。
大きなキングサイズのベッドが部屋の真ん中に存在感を出している。

どの部屋もクリーンスタッフにより掃除が行き届いている。

家の中を一通り見終えると、私の中にイケない好奇心が沸き上がって来た。
そう、陽斗が開けてはいけない部屋はどのようになっているのか、とても興味が湧いて来る。

(…ほんの少しだけなら…いいよね…)

とうとう私は好奇心に負けて、陽斗の部屋をそっと開けてしまったのだった。

「…失礼します…」

誰もいないが、一応挨拶を口にしながらドアを開けた。

すると、陽斗が見せたくない理由がすぐにわかってしまった。

その部屋は陽斗の書斎のようだが、床は本や参考書、紙屑などでまったく見えないほど散らかっている。
そして、机の上には、今にもくずれそうな書類の山が天井近くまで積み上げられていたのだ。

しばらく掃除もしていないのか、この部屋だけ埃が溜まっている。
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