天才外科医は仮初の妻を手放したくない
「理久!お待たせ!」
私達は以前に一緒に呑みに行った居酒屋で待ち合わせをした。
先に付いていた理久は生ビールをジョッキ半分くらい飲んでいた。
理久は私が来るなり、ビールを一口飲み込んで私を真っすぐ見た。
「澪、仮初の妻役とかいってたが夫は誰なんだよ。」
「うん、西園寺陽斗という外科医の人。」
すると理久は何か考えるような表情をしてから話しを続けた。
「西園寺って、あの財閥の家柄じゃないのか?」
「うん、そうだよ。そして陽斗さんは結構有名な外科医らしいの。」
理久はいきなり両手で机をバンバンと叩いた。
「澪、なにを呑気なこと言っているんだよ。なんでそんなすごい奴がおまえに妻役をさせているんだよ。」
理久がなぜそんなにも怒っているのか理解できない。
「理久はなんでそんなに怒るの?私は何も悪いことしていないよね?」
理久は下を向いてなにか小声でぶつぶつと言っている。
少しして大きく息を吐いた理久が呆れた表情で話を始めた。
「澪はそいつに利用されているだけじゃないか。期間限定の妻なんて、結婚して飽きたら捨ててしまうのと同じように思うけどな!」
西園寺の味方はしたくないが、少なくとも西園寺は理久が言っているような悪い人間ではなさそうだ。
一方的に悪口を言われて少し怒りが込み上げて来た。
「理久は何も知らないのに、西園寺さんの悪口言わないでよ。確かに私は利用されているかも知れないけど、理久が思っているようなことでは無いよ!」