天才外科医は仮初の妻を手放したくない

私は怒りながら何故か涙が頬に流れていた。
兄のように慕っている理久が、なぜそんなに意地悪を言うのか分からなかったのだ。

私の涙を見て、理久は少し焦っている様子をみせた。

「ご…ごめんよ澪、べつに攻めている訳じゃない。ただ俺は澪が心配なんだよ。」

「もう!理久のばかぁ!!」


私が泣いてしまったので理久はもうそれ以上その話はしなかった。
ただ、今度東京に来るときには、西園寺に合わせてくれと言って理久は帰って行ったのだった。


翌日、目が覚めてもまだ陽斗は家に帰っていなかった。
私は陽斗のベッドルームの隣にあるゲストルームを借りていた。

このマンションのリビングは大きなガラスで朝日が気持ちよく差し込んでくる。
私は思わず両手を上げて大きく伸びをしてみた。

すると、玄関がカチャリと音を立てて開く音がしたのだ。

(…陽斗さん帰って来たんだ!…)

私は玄関に向かって急ぐと、陽斗は私を見て驚いたのか目を大きく見開いた。

「陽斗さん、お帰りなさいませ。」

一瞬、固まったように見えた陽斗が声を出す。

「た…ただいま。誰かに迎えてもらうのなんて久しぶりだよ…なんか良いもんだな。」
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