天才外科医は仮初の妻を手放したくない

「澪、悪いが昨日は睡眠をとっていないので少し休ませてもらうが、その後一緒に出掛けないか?」

「…はい。でもお疲れなのではないでしょうか。」

恐らく陽斗は徹夜でオペをしていたのだろう、かなり疲れているのが顔色からもわかる。
しかし、私のために時間をとってくれようとしているので、申し訳なく感じていた。

「大丈夫だ。どこかへ出かけた方が気分転換になる。2~3時間待っててくれ。」

陽斗はそれだけ言い残すと、ベッドルームに入って行った。

まったく知らない男性と一緒に暮らすのだから、窮屈は感じるだろうと覚悟していた。
しかし、今のところなにも不自由もなくストレスも無い。
むしろ、陽斗の意外な面を発見できて楽しくもなっていた。

理久は陽斗を悪く言っていたが、私自身はこの状況を楽しみ始めていたようだ。

陽斗が起きるまでに出かける用意はしておきたい。
何を着て行こうかと、服を広げて鏡の前で考える。

(…これは少し子供っぽいよね…)
(…こっちは固すぎるイメージかな…)

なかなか着ていく洋服が決まらない。
これでは初めてのデートに行く女の子のようである。
これまで学生時代には付き合った彼氏もいたが、就職してからは仕事が忙しく恋愛どころではなかったのだ。
久しぶりになぜかワクワクする自分がいた。

陽斗が部屋に入って3時間後。
約束通り、陽斗は部屋から出て来た。
少しだるそうに部屋を出て来たが、私を見て目を丸くしたのだった。

「…澪、もう出かける準備は出来ているんだね。ごめん待たせたようだ。」

「陽斗さんに恥をかかせない服装と思ったのですが、あまり服の種類が無くて…これでよろしいでしょうか。」

散々考えたあげく、選んだのはベージュの少し大人の雰囲気のするワンピースだ。
陽斗は私をじっと見た後、柔らかい表情をした。

「澪、すごく素敵だよ。…俺の奥さんはとても綺麗な女性だと見惚れてしまうよ。」



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