天才外科医は仮初の妻を手放したくない


「もう、陽斗さん!揶揄うのは止めてください!」

お世辞だとわかっていても、陽斗から褒められるとなんだか嬉しくなって来る。
顔が自然と熱くなってきた。

「では、俺も澪の服装に合わせて着替えて来るかな」

陽斗は部屋にもどり、5分も経たないくらいで出て来たのだった。
白のTシャツの上にベージュのジャケットを羽織っている。
さりげない服装だけれど、私のワンピースに合わせてくれているようだ。

今さらではあるが、陽斗は本当に美しい男性だ。
何を着てもカッコ良く着こなしてしまう。
その様子に見惚れてしまいそうになる。

「それでは、奥様、どうぞお乗りください。」

陽斗は少しふざけて助手席のドアを開けた。
どうやら車で出かけるらしい。

運転席に乗ると、陽斗は細いシルバーの縁が付いた眼鏡をかけたのだ。
眼鏡姿もきまっている。

「…陽斗さん、眼鏡かけるのですね。」

「休みの日はコンタクトをしたくないんだ。眼鏡は嫌い?」

「…いいえ、とってもお似合いでカッコいいです。」

すると、陽斗は一瞬驚いたように動きを止めた。
私は何を言ってしまったのだろう。
真面目にカッコいいなんて、本人に言ってしまうなんて恥ずかしい。

「あ…あ…あの…違うんです…そのカッコイイのは本当ですが…」

弁解しようと言葉を出すが、余計に変な事を言ってしまいそうになる。

すると、意外にも陽斗は少し恥ずかしい様子で口元を押さえた。
耳が赤くなっている。

「なんか、面と向かってカッコイイなんて言われると恥ずかしいな…ありがとう。」


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