天才外科医は仮初の妻を手放したくない
「澪、おやすみ、ゆっくり休めよ。」
「はい。おやすみなさい。」
陽斗は自分の寝室に向かいながら、私に声を掛けた。
私はこのマンションに来た初日から使わせてもらっている、陽斗の寝室の隣の部屋のノブに手を掛けた。
仮初の夫婦なので、もちろん寝室は別なのだ。
私はベッドに横になり、今日の出来事や陽斗に出会ってからの事を思い起こしていた。
初めて陽斗に会った時は、何て強引な男だと思ったが、今は一緒に居て嫌では無いのだ。
それどころか、まだまだ陽斗のことは何も知らないが、もっと陽斗を知りたいと思っている。
政略結婚をさせられる陽斗は、それ以前に彼女はいなかったのだろうか。
あんなにもモテそうな陽斗に彼女がいない方が不思議でもある。
いろいろ考えていると、眠れなくなってしまう。
翌日、目を覚まし部屋を出ると、すでに陽斗の姿は無い。
テーブルには書き置きが置いてあった。
“ 病院から呼び出しがあり、早く家をでる。”