天才外科医は仮初の妻を手放したくない
「西園寺さんですよね?」
私は少し驚いた表情でその女性の方を見た。
そこには、とても美しい女性がいたのだった。
その女性は、ロングのストレートヘアが美しく、とても華やかな顔立ちの女性だった。
とても瞳が大きく、口元は小さいがぷっくりとした唇がとてもセクシーである。
「あの…どちら様でしょうか?」
私が女性に尋ねると、突然鋭い視線を私に向けて来た。
「私は西園寺陽斗の恋人なの。妻の役目は私がするわ。だからあなたはここから出て行ってくれないかしら。」
あまりの突然なことに驚いた。
この美しい女性は陽斗の恋人だと言っている。
たしかに陽斗と並ぶと絵になりそうでとてもお似合いでもある。
「私は陽斗さんに頼まれてここに居るのです。だから勝手に出て行くことは出来ません。」
すると、その女性はいきなりふるふると震えたかと思うと、次の瞬間私の頬に平手打ちをしたのだ。
“…ビシッ”
静かなエレベーターホールに私の頬を叩く鈍い音が響いた。
女性は私を睨みつけると、踵を返して足早に出て行ってしまった。
私は叩かれた頬に熱さを感じて押さえてみると、すでに頬に熱を持っているようだった。
部屋に入り、すぐにタオルを冷やして頬にあてた。
なぜか陽斗に知られたくないと思ったのだ。
それから数時間経った頃、ドアが開く音がした。
陽斗が帰って来てしまったようだ。
叩かれた頬はまだ熱を持っている。
私は手で顔を覆うようにして陽斗を出迎えた。
「お…おかえりなさいませ」
すると、あまり顔を陽斗の方に向けない私を不審に思ったのか、陽斗が私を顔を覗き込んだのだ。
「…澪、頬が赤いようだがどうしたんだ。」
「え…ええと…壁にぶつかってしまって…私は注意散漫ですよね…」
作り笑いをして陽斗に見せたが、陽斗は真剣な顔で私の頬に手を当てた。