天才外科医は仮初の妻を手放したくない
私はマンションの近くの公園でブランコに腰かけていた。

この時間はまだ小学生が学校にいる時間だからなのか、公園に居るのは老夫婦と小さな子供を連れたお母さんの二組だけだったのだ。
老夫婦はベンチにすわり穏やかに話をしている。
子供を連れたお母さんは、子供が滑り台に上る様子を近くで見守っている。
とても優しい笑顔だ。

私はブランコの鎖を両手で掴んで、空を見上げた。
太陽は眩しいが、ゆらゆらと水の中から見えるような景色が広がっている。
自然と頬に温かい物が流れているのを感じる。

なぜこんなに涙が出るのか自分でもわからない。

どれだけの時間このブランコにいたのだろう、気づけば誰もいなかった公園に沢山の子供たちが遊んでいる。
小学校の帰りなのだろうか、ランドセルを公園のベンチに置いたまま駆け回る男の子達。

私がその子供たちをぼんやり見ていた時だった。
私の持っていた携帯電話が鳴ったのだ。

病院を出てから陽斗が何度もメッセージを送ってくれている。
きっと陽斗だろうと電話を見ると、そこには幼馴染の理久の名前があった。

理久とは先日話をしてから少し気まずさもあり、連絡をもらっても返事を返していなかったのだ。



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