天才外科医は仮初の妻を手放したくない
店内を見渡すと、友達同士で盛り上がっている女性達や、仕事帰りのサラリーマン、仲の良さそうなカップルなど皆が楽しそうにお酒を飲んでいた。

その様子を見ていた私は、なんだかとても孤独を感じてしまったのだ。
1人でビールを呑みながら、また流れ出しそうな涙を堪えていたのだった。
私はいつからこんなにも泣き虫になってしまったのだろう。

すると、誰かが後ろから私の頭にポンと手を乗せた。
振り返るとそこに居たのは理久だった。
理久は私の顔を見て慌てているようだ。

「澪!どうしたんだよ。そんな泣きそうな顔して。」

理久の顔を見た途端に涙が溢れだした。
さらに声を出して私は泣いてしまったのだ。

「理久…私、どうしたら良いのか分からなくなってきたの。」

静かに頷きなながら聞いてくれる理久に、頬を叩かれた一連の話を時系列で伝えた。
自分でも何がそんなに悲しいのか分からない。

頬の痛みよりも心が痛いのだ。



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