天才外科医は仮初の妻を手放したくない
幼馴染
「お父さん、お母さん、ただいま!」
私は久しぶりに実家の玄関を開けて声を掛けた。
玄関を開けると、実家の愛犬であるシーズー犬のポンタが勢いよく飛びついて来た。
抱っこすると嬉しそうにしっぽをクルクルと回すのが可愛くてたまらないのだ。
「ぽんた~帰ったよ!!」
すると、廊下の奥からパタパタとスリッパの音がする。
お母さんの足音だ。
「あら、あら、澪じゃない。どうしたの…いきなり帰って来て驚いたわ。」
お母さんが目を大きくして驚きながら迎えてくれた。
お父さんはもう会社に行ってしまっている時間だったようだ。
今、家に居るのはお母さんとポンタだけだ。
「とりあえず、ゆっくりしなさい。」
お母さんは何も聞かずに、目の前に珈琲を置いてくれた。
うちは父親の影響で家族全員が珈琲好きである。
恐らく何かあったことは気づいているけれど、何も聞かないでくれるお母さんの優しさを感じる。
「朝食はもう食べたの?」
「うん、理久の家で頂いた。」
「理久君の家に行ってたの?」
お母さんは少し驚いたように目を丸くした。
「昨日の夜遅い時間に理久が東京からここまで連れて来てくれたの。遅い時間だからって理久の家の客間に泊めてもらったんだ。」
すると、お母さんは急にニマニマとした笑顔を浮かべた。
「まぁ、理久君と今でもそんなに仲良しだったのね。澪はいつも理久君の後ろを追いかけていたもんね。」
「お母さん!それは私が小さい頃の話でしょ!今は幼馴染のお兄さんだよ。」
「はい、はい…わかりました。」
すっかりおかあさんも誤解してしまっている様子だ。
考えてみると、私は理久に対して幼馴染のお兄ちゃん以上の感情は持ったことが無い。
確かに一緒にいると安心するがそれ以上のことは何も無いのだ。