天才外科医は仮初の妻を手放したくない
「理久、私は理久が大好きだよ…でも、私はまだやり残して来たことが沢山あるし、今すぐにここで暮らすことは出来ないと思う。」
すると理久は少し俯いて小さな声を出した。
「澪はあの男の所に帰るのか…こんなにも傷つけられて、なぜ帰るんだ。俺は澪を帰したくない。」
「…理久。」
その時だった、店のドアがカランコロンと音を立てて開くと同時に懐かしい声がしたのだった。
「理久くん、澪ちゃん、久しぶりだね!」
店に入って来たのは、学生時代の友人である 陽太(ようた)と早紀(さき)だった。
二人は大学卒業と同時に結婚したと聞いていた。
先に返事をしたのは理久だった。
「陽太、早紀、よくここに俺達がいるってわかったな。」
陽太が自慢するように話し出した。
「今日は俺たちの結婚記念日なんだ。だから理久の所で美味しい酒でも買おうと思って行ったら、理久が町に行っているとおばさんが教えてくれたんだ。さらに澪ちゃんが帰って来ていると聞いたんで、二人が行きそうな場所はすぐわかったよ。」
早紀も嬉しそうにうんうんと頷いていた。
そして陽太が何かを思いついたように目を輝かせて話し始めた。
「そうだ、今日はもともと俺たちの家でパーティーをする予定だったんだ。理久と澪ちゃんもうちに来ないか?」
理久は私をチラリと見ながら確認するような表情を見せたので、私は大きく首を縦に振った。
「いいねぇ、澪も行くって言ってるし、後でパーティーにおじゃまさせてもらうよ。」