天才外科医は仮初の妻を手放したくない

「理久くん、澪ちゃん、どうぞ上がって!」

出迎えてくれたのは、エプロン姿の早紀だった。
早紀は忙しそうにパーティーの料理を作りながら出迎えてくれた。

陽太はテーブルにグラスを並べたり部屋の準備をしていたようだ。

「陽太くん、早紀ちゃん、おめでとう。」

私は町で買ってきた花束を早紀に手渡した。

「うわぁ、綺麗なお花をありがとう!」

さらに理久が紙袋から何かの瓶を取り出した。

「これは当店自慢のワインなんだ。契約している農家さんが製造していてなかなか手に入らないワインだぞ。」

陽太は理久からワインを嬉しそうに受け取った。

「よっ、さすが老舗酒屋の御曹司!」

久しぶりに会う友人たちだが、そんなことも忘れるくらい昔のままで変わらない皆の笑顔。
昔話にも花が咲いてくる。

理久と陽太が昔の武勇伝に夢中になっていた時、早紀が私に話し掛けて来た。

「ねぇ、澪ちゃんは理久くんと付き合っているの?それとも他に恋人がいたりしてね。」

「う…うん。理久とはただの幼馴染だし…特に恋人と言える人もいないかな。」

「ふう~ん、澪ちゃん怪しい。だってすごく綺麗になったし、好きな人いるんじゃない?これは女の勘だけどね。」

早紀は私の顔を覗き込み、何かを探るような悪戯な表情をした。

私の好きな人は誰なのだろう。自分でも分からない。
ただどうしてもいろいろな場面で思い出してしまうのは、なぜか陽斗の顔だった。
まだ出会って間もないはずなのに、私の頭から離れないのだ。





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