天才外科医は仮初の妻を手放したくない

陽斗は理久が何を言うのか怪訝な表情をした。

「1つ目は…悪いがあんたを一発殴らせてくれ。」

理久の申し出に驚いた表情をした陽斗だったが、なぜか笑顔を浮かべて理久の前に出た。

「ああ、いいぞ、お前の気が済むように殴ってくれ。」

すると理久は拳を握りしめて陽斗に向き合った。

「腹の所をこれから殴る。力入れておけよ。」

次の瞬間、“ドスッ”という大きな鈍い音と同時に陽斗が後ろに倒れたのだった。

「陽斗さん、大丈夫ですか…」

私が近づくと、陽斗は私に近づくなと言うように私を振り払った。
そして、理久をもう一度見た。

「もう一つの願いとはなんだ!」

理久は目に涙を浮かべていた。
そして陽斗に手を差し伸べて起き上がらせたのだった。

「澪を悲しませないでくれ…殴って悪かった。澪を頼む…これが俺の願いだ。」

陽斗は理久の両肩に自分の手を置いた。

「男の約束だ。必ず守る。」

理久は小さく頷くと向きを変え家に向かって歩き出した。
そして振り向かずに手を振ったのだった。



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