天才外科医は仮初の妻を手放したくない
陽斗は私の手を引き寄せると、そのまま私を抱きしめたのだった。
私の心臓が大きく音を鳴らした。
「澪、俺は君を利用したのに…初めてだったんだ、もっと一緒に居たいと思う女性に会ったのは。君が家で待っていると思うと仕事も早く終わらせて家に帰りたくなった。君と行った横須賀の海もいつも以上に癒されて心地よかった。澪が一緒だと俺の世界が明るくて温かい物に感じるんだ。」
「…陽斗さん。」
私はそのまま陽斗の胸の中で目を閉じた。
その時やっと気が付いたのかも知れない。
私は陽斗に惹かれている…ずっとこうして欲しかったのだと。
「澪、これから君の実家に俺を連れて行ってくれないかな。正式に君の両親にご挨拶したい。」
家に帰るとちょうどお父さんも家に帰って来ていた。
父は私を見て目じりを下げて喜んでくれたが、すぐに後ろにいる陽斗に目を向けた。
「澪、そちらの方は誰なんだい?」
私は父と母の前で姿勢を正した。
「お父さん、お母さん、紹介したい人がいるの。」
両親は私の突然の申し出に驚きながらも、私の目の前にある椅子に座ったのだ。
すると陽斗は私の前に出て、いきなり床に膝を着いた。
「順番が逆になり申し訳ございません。澪さんと結婚させて頂いた西園寺陽斗と申します。」
父は驚いたように立ち上がった。
「け…け…結婚した?それはどういう事なんだ。」