天才外科医は仮初の妻を手放したくない
もう一度初めから
・・・・・
「陽斗さん、行ってらっしゃい。」
陽斗のマンションに戻った私は陽斗を以前のように送り出した。
しかし、以前と変わったのは陽斗だった。
「澪、行ってきます。」
そして、私の額にチュッとキスをしたのだった。
突然の口づけに驚き顔が熱くなる。
その頬に陽斗は手を添えて、微笑を浮べた。
ものすごく破壊力のある微笑だ。
「真っ赤になって、うちの奥さんは可愛いね。」
私が何か言おうとするが、陽斗はヒラヒラと手を振って玄関を出て行ってしまった。
私の実家から帰ってきて以来、陽斗さんが甘すぎるのだ。
その度に心臓がドキドキとうるさく騒ぎ出し、これから心臓が持つのだろうかと思ってしまうくらいだった。
実家からの帰り道、陽斗が言った言葉がある。
それは、“僕たちは初めからもう一度やり直そう”と言ったのだ。
最初から夫婦になってしまったが、本来は恋をして愛を育みあって結婚する。
だからまずは恋人になるところからやり直そうと言ったのだ。
しかし、もともと陽斗とは恋愛の経験値が違い過ぎる。
いくら本気の恋はしていないと言っても、陽斗は何人の女性と付き合ってきたのだろう。
世間の恋人同士はどういう接し方をしているのだろうか。
考えるとますます分からなくなる。