天才外科医は仮初の妻を手放したくない
私達は買い物を終えて家へと向かっていた。
途中で売っていたホットドックカウンターでホッとドックを買い、食べながら歩くことにした。
陽斗は食べ歩きも初めてのようだ。
ホッとドックを頬張りながらなんだかとても嬉しそうである。
少し歩くと、後ろから一台の車が私達の横に止まったのだ。
赤のスポーツカーだ。
スーッと窓が開くと運転していたのは、私を叩いた医師の早乙女だった。
早乙女は陽斗を見て眉をひそめた。
「陽斗、何をしているの?買い物のバックなんて肩に掛けて、あなたらしくないわ。」
陽斗は早乙女に向かって無表情で答えた。
「君が思う俺はどんなイメージなのか知らないが、俺らしくない?俺は好んで買い物を楽しんでいるんだ。お前こそもう俺に構うのは止めてくれないかな。」
すると早乙女は急に表情が変わり、一緒に居る私に向かって今度は声を荒げた。
「陽斗が何を言おうと、あなたには陽斗は似合わないわ。身の程知らずとは恐いものね。」
私が何か言おうとした時、陽斗は私を守るように前に立った。
「この前も言ったはずだ。俺は澪を愛しているんだ。俺の澪を侮辱するのだけは許さないからな。」
陽斗は珍しく声を荒げて、早乙女が乗っている車のドアをバンと叩いたのだ。
早乙女は陽斗の勢いに肩をすぼめて声を詰まらせた。
「い…いつかきっと後悔するわよ…そんな女じゃ、飽きてしまうに決まっているわ。」
早乙女は捨て台詞のように言うと車を急いで走らせたのだった。
まさか陽斗がそんなに怒るとは思わなかったのだろう。