天才外科医は仮初の妻を手放したくない
私が大きな声を出した時、部屋を誰かがノックしたのだった。
そして静かにドアが開けられた。
ドアを開けたのは西園寺陽斗だった。
西園寺は私達の話を聞いていたようだ。
西園寺は白のフロックコートに着替えていた。
その姿は眩しい程に似合っており、思わず見惚れてしまいそうだ。
「君を騙して悪かった。しかし今日の結婚式はもう中止にできないんだ。政財界の重鎮が来賓で呼ばれている。失敗すれば病院の存続にも関わるし、俺の将来がかかっている。悪いが君に引き受けてもらいたい。」
「でも、そんな嘘をついて皆さんに本当の事がバレたらどうするのですか!」
すると西園寺は、いきなり私の頬に手を添えた。
突然のことに頬が熱くなる。
「君、名前は?」
「あ、あ…秋月澪です。」
すると西園寺は微笑を浮べる。
「澪…君は今日だけ一条家を名乗ってくれ。結婚すれば、西園寺澪だけどな…よろしく澪。」
西園寺から名前で呼ばれると、心臓がうるさく音を立てた。
本当は怒りたいのに、なぜか彼の強引なペースに飲まれてしまう。