天才外科医は仮初の妻を手放したくない
「陽斗さん、ジャガイモの皮むき上手ですね。」
陽斗は器用にピーラーを使い手早くジャガイモの皮をむいていた。
初めてジャガイモの皮をむくとは思えない腕前だ。
「フフッ…俺を誰だと思っているんだ。俺は外科医だぞ、手先はすごく器用なのだ。どんなに細い血管でも縫合できるのだからな。」
考えてみれば確かに外科医は手先が器用なのかも知れない。
繊細な手術も行う天才外科医の陽斗ならば造作も無い事だったようだ。
今日のメニューはポトフにしてみたのだ。
ポトフは野菜やお肉をスープで煮込むだけなので、比較的手がかからず初心者の陽斗さんにも覚えやすい料理のはずだ。
「後は煮込むだけです。少し休憩しましょう。」
私は全ての材料を鍋に入れて、弱火でコトコトと煮込み始めた。
すると陽斗は待っていたように得意気な顔をした。
「実は料理を始める前に珈琲を作っておいたんだ。アイスコーヒーで良いかな?」
「はい、お願いします。」
ポトフを煮込むまでの間に、陽斗と並んで座りアイスコーヒーを飲む。
何気ない日常がとても幸せだった。
しかし、そんな幸せにまたしても試練が訪れようとしていたのだった。