天才外科医は仮初の妻を手放したくない
ここは小さな島にある診療所。
「田中のじいちゃん、どうしたの?またお腹が痛いのかい?」
真っ黒に日焼けした、皺の深い老人が陽斗に話をする。
「先生、この前の薬を出してくれるかい。すぐに良くなっちまって婆さんも驚いてたよ。」
「この前の薬は痛み止めだから、どこが悪いかしっかり診ないとダメなんだよ。来週には新しい機械が届くから検査しようね。」
陽斗と私はこの島に来て2週間ほど経っていた。
この島にいた医師が高齢という事もあり新しい医師を探していたのだ。
陽斗はこの診療所の医師として働き始めている。
医療機器も古い物ばかりなので、陽斗は以前の知り合いから新しい機器も頼んでいた。
たった2週間ではあるが、すっかりこの島に馴染んでいる。
私はというと、ホテルのフロントに居たスキルを活かして、診療所の受付の仕事をして陽斗を手伝っている。
幼稚園児くらいの女の子が私に話し掛けて来た。
とてもおしゃまさんである。
「お姉さんの旦那さんは先生なの?いいなぁ、先生は超イケメンだってみんな言ってるよ。メイも大きくなったら先生と結婚したい。」
「メイちゃん、先生は私の旦那様だけど、きっとメイちゃんにも素敵な男性が現れるわよ。」
メイちゃんはキャイキャイと声をあげて嬉しそうだ。
そこへメイちゃんのお母さんがやって来た。
「メイ、お姉さんの邪魔をしちゃだめよ。…そうだ、お姉さんにこれをハイしてきてね。」
お母さんがメイちゃんに何かの袋を渡すと、メイちゃんは嬉しそうに私の所へ戻って来た。
「ハイ、これママがお姉さんにあげるって言ってたよ。」
メイちゃんがくれた袋をみると、いろいろな野菜が入っていた。
この辺りは皆自分の家で野菜を作っているのだ。
「わぁ、美味しそうなお野菜!ありがとうございます。」
私がお礼を伝えると、メイちゃんとお母さんは笑顔で手を振ってくれた。