天才外科医は仮初の妻を手放したくない

「陽斗さん、そろそろお昼にしましょうか?」

私達は診療所の奥にある小さな家で生活している。
お昼は家に戻ってご飯を食べるのだ。

「澪、疲れているのに毎日ご飯作ってくれてありがとう。」

「私は料理が好きなので、全く問題ないですよ。それにこの辺りのお野菜は皆新鮮で甘くて美味しいですよね。」

今日のメニューは頂いた野菜と魚で天ぷらを作った。
つけ汁には沢山の大根おろしと大葉を刻んでさっぱりと食べられるようにした。

「では、神様と澪に感謝して頂きます。」

陽斗は手を合わせて挨拶をすると、嬉しそうに天ぷらに箸をつけた。

「う…美味いなぁ…澪は天才!」

「褒めてもこれ以上何も出ませんよ。」

住む場所も何もかも以前とは異なるが、私はとても幸せだった。

ただ、陽斗がたまに診察室で何か考えているところを見かけている。
やはり天才外科医と言われた陽斗さんが、どんな気持ちなのかはわからない。

そんなある日、珍しいお客さんがやって来た。



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