天才外科医は仮初の妻を手放したくない

「田中さん、田中のじいちゃん、大丈夫ですか!?」

家で倒れている田中さんに声を掛けるが返事が無い。
陽斗が聴診器で心臓の音を確かめた。

「…重症心不全だ。」

それを聞いた大久保が大きな声を出す。

「陽斗、あの診療所で手術は出来るのか?」

「あぁ…手術台はかろうじてあるが、旧式の超音波くらいしか機器は無い。もちろん人工心肺装置なんて無いんだ。」

陽斗は俯いて唇を噛んだ。
すると、大久保はさらに大きな声を出した。

「何を迷っているんだ!ここには天才外科医の西園寺陽斗と凄腕外科医の大久保がいるじゃないか!」

大久保の言葉に陽斗は顔を上げた。

「大久保、一緒にやってくれるか。」

「俺を誰だと思っているんだ、目の前に患者がいたら助けるのが俺達だろ?さぁぐずぐずしてられないぞ。」


田中さんを乗用車に乗せて急ぎ診療所に運び、すぐに緊急オペを始めた。
設備も無いこの診療所で心臓手術なんて本来はありえないことだ。
神業以外に考えられない。



手術が始まってすでに3時間が経過している。
私は田中さんのお嬢さんの背中をさすりながら祈ることしかできなかった。


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