天才外科医は仮初の妻を手放したくない
辺りが少し暗くなり始めた時だった。
手術をしていた部屋から陽斗と大久保がゆっくり出て来たのだった。
田中さんのお嬢さんと私は陽斗たちに駆け寄った。
「田中さんは?」
「爺ちゃんは…爺ちゃんは…。」
少しして陽斗がお嬢さんに笑顔を向けたのだ。
「田中のじいちゃんはもう大丈夫ですよ。良く頑張ってくれました。」
その言葉を聞いて、お嬢さんは安心して力が抜けたように床にペタンと座ってしまった。
私は彼女を抱き起しながら声を掛けた。
「田中さん、良かったですね。」
田中さんの娘さんは、陽斗と大久保に手を合わせて御礼を伝えた。
「先生、本当に…本当にありがとうございます!先生たちは神様だねぇ。」
陽斗も大久保も嬉しそうに目を細めている。
すると陽斗は大久保に向かっていきなり頭を下げたのだった。
「大久保、本当にありがとう。お前がいなかったら助けることも出来なかったよ。」
大久保は少し照れくさそうにニヤニヤとしている。
「お前から頭を下げられる日が来るとは思わなかったよ。でも、お前の言っていたこの診療所の良さが少しわかった気がするぜ。それと…お前はやっぱり天才外科医だな。」