天才外科医は仮初の妻を手放したくない

それから毎日のように陽斗は遅い時間に帰って来ては、翌日も早く出てしまう。
忙しいのは仕方ない事だが、そこにはいつも北条光莉が一緒なのだ。

陽斗は変わらず優しく甘い。
毎日、出かける前は私にキスをしてくれる。

こんなにも私に優しく接してくれている陽斗になのに、私は心が狭いのだろうか。
どうしても北条が気になって仕方がないのだ。



今日も西園寺家の嫁教育は、夕方までぎっしり詰め込まれた。
もう、頭の中はキャパオーバーで煙が出そうだった。

そんな時、私の携帯が鳴ったのだった。

「…澪?久しぶりだね。」

この声は、幼馴染の理久だった。

理久とは実家に帰った時の陽斗さんへの事件以来、連絡を取っていなかった。


「…理久、あの時はいろいろごめんね。」


「澪、もうあの事件は忘れてくれ、それよりも近いうちに会えないか?」


今日はちょうど理久が東京に来ているというので、早速待ち合わせの約束をした。

待ち合わせは何度も利用しているいつもの居酒屋だ。

私は時間より少し前に着いたので、席に座り生ビールを飲んで待つことにした。

少しして入り口から理久が手を振って入って来た。
私が手を振り返した時、理久の後ろに知っている顔が見えたのだ。

「先輩!お久しぶりです。」

理久と一緒に来たのは、後輩の池田 真由だった。
彼女は私の後任のフロント業務を担当している後輩だ。

「真由ちゃん!…なんで、理久と一緒なの?」

すると、二人は顔を見合わせたのだった。
そして理久は照れながら話し始めた。

「実は俺、真由ちゃんと付き合う事になったんだ。だからそれを澪に伝えたかったんだ。」

私は思っても見ない組み合わせに驚いた。
理久と真由はどこに接点があったのだろうか。

すると、真由が恥ずかしそうに話し始めた。

「前坂理久さんが、いつも先輩に会いにホテルに来ていたのですが、実は私が理久さんへ一目ぼれなんです。そして勇気を出して告白したら理久さんが付き合ってくれるって返事を貰ったんです。」

理久は頭に手を当てて、照れくさそうにしている。



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