天才外科医は仮初の妻を手放したくない
「理久、真由ちゃん!おめでとう。」
二人は照れながら目を合わせて笑っている。
その光景はとても微笑ましく見えた。
すると、真由が私を見てニヤニヤと笑いながら話し出した。
「先輩、理久さんに聞いたのですが…西園寺さんと両想いになったそうですね。」
「う…うん。」
真由に改めて言われると恥ずかしい気持ちになる。
そして、真由は思い出したように言葉を続けた。
「そういえば、昨日、西園寺さんがホテルにいらっしゃいましたよ~。」
私は陽斗から仕事の詳細は聞いたことが無いが、私の働いていたホテルに行くなら言ってくれても良さそうなものだ。
「真由ちゃん、陽斗さんはロビーラウンジかどこかでお仕事の話みたいだった?」
真由は口を尖らせて、首を横に振ったのだった。
「西園寺さんは、お部屋のロイヤルスイートをご予約でしたよ。部屋で仕事なんて珍しいですよね。」
真由から話を聞いたとき、急に私は手が冷たくなり震えが出てしまった。
なぜ仕事でホテルの部屋を必要としたのだろう。
その時、思い浮かんだのは、北条光莉の顔だった。
彼女は陽斗とロイヤルスイートで一緒だったのだろうか。
なんだか突然居たたまれない気持ちになった私はその場で急に立ち上がった。
「理久、真由ちゃん、ごめんね。私…ちょっと急用を思い出しちゃった。後は二人でごゆっくりね。」
私は努めて明るく二人に手を振った。
しかし、手は冷たく今にも立ち眩みで倒れそうだったのだ。