天才外科医は仮初の妻を手放したくない

疑い


家に戻り私はリビングの椅子に腰かけた。

電気をつける気持ちになれない。

私は暗いリビングで座っていたのだった。

どれだけ時間が経ったのだろう、暗かったリビングはうっすらと明るくなってきたのだ。

もう夜明けなのである。

気づけば陽斗はまだ帰っていない。

陽斗が病院の当直やオペ以外で朝帰りをすることは初めてだ。

ますます陽斗を疑う気持ちは大きくなる。

その時、玄関のドアが開く音がした。

陽斗が帰ってきたようだ。

リビングに入って来た陽斗は、私がいることに驚いたように目を大きくした。


「澪、どうしてここに座っていたの?」


陽斗は心配そうに私に近づくと、私を抱き寄せようとしたのだった。
しかし、私は無意識で陽斗を拒絶するように腕を払ってしまったのだ。

私は慌てて陽斗に弁解した。


「ご…ごめんなさい。なんだか、私…疲れているみたい。少し一人で寝かせてね。」


陽斗は少し悲しい表情を見せたが、これ以上陽斗と一緒に居ると自分が何を言ってしまうか不安になった。
今日は陽斗と一緒のベッドではなく、引っ越し当初に使わせてもらっていた客間へと向かった。




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