天才外科医は仮初の妻を手放したくない
さらに部屋の入り口に駆けつけて来たのは、陽斗の両親や村瀬だったのだ。
他の執事やメイドも数人一緒に駆けつけてくれた。
最初に声を掛けたのは、お母さんだった。
「澪さん、大丈夫なの?あなたが今日は西園寺家に来られないと聞いて慌てたのよ。」
後になって分かった事だが、西園寺家の教育はもちろん大切だが、毎日夕方まで私を引き留めていたのは、危ない派閥から私を守る必要があったからなのだと分かったのだ。
私は陽斗が浮気していると疑ったばかりに、事件は大きくなってしまったのだ。
私は皆に向かって深く頭を下げた。
「申し訳ありません。私のせいで、皆さんに迷惑をかけてしまいました。」
すると、陽斗は私の頭を後ろから優しく撫でてくれた。
「澪、俺達もいけなかったんだ。澪に心配を掛けたくないと思って、狙われていることを内緒にしていたんだ。謝るのは俺の方だ。許してくれ。」
私は陽斗に抱きしめられながら声を出して泣いた。
「だって…だって…光莉さんが、あんなに綺麗だから…陽斗さんは光莉さんに夢中になってしまったと思いました…うぇ~ん。」
光莉は私の後ろで手を広げて呆れたポーズを取っていた。
これで全てが分かった。
ホテルの部屋で打ち合わせをしたのは、他の派閥などに盗聴されたりしないようにしていたそうだ。
陽斗が朝帰りしたのも、単純に忙しかっただけのようだった。