天才外科医は仮初の妻を手放したくない


「澪、来週はとうとう西園寺家の当主交代のお披露目パーティーだ。それが済めば少し時間に余裕ができそうだ。」

その時、私は日下部から電話を貰っていたことを思い出した。

「陽斗さん、もし少し時間ができたら、あの島にある診療所に行きませんか?実は先日、日下部君から電話を貰ったんです。島の皆さんもお元気だと言ってましたよ。それに大きな病院からもう一人先生を派遣してくれるそうですよ。」

陽斗は島の話を聞いて目を輝かせた。

「そうだな、島に行きたいな。日下部君も頑張ってくれているみたいだし。…島の皆に会いたいな。」




西園寺家の当主交代お披露目パーティーは、政財界の重鎮や各界の有力者も呼ばれる盛大なパーティーだ。

陽斗はもちろん主役だが、その妻である私も出席しなくてはならないのだった。


陽斗が紺色で光沢のあるスーツを着るのに合わせて、私はブルーのロングドレスを用意された。
何を着ても綺麗に着こなしてしまう陽斗は見惚れてしまうほどに素敵である。
自分が隣に立つのも恐れ多いと感じてしまうほどだ。

しかし、陽斗は私に甘いのだ。

「澪のドレス姿はとても美しいな、この姿を皆に見せるのは勿体ないくらいだ。できれば誰にも見せたくない。」

「陽斗さん、誰も私のことなんて見る人はいませんよ。」

陽斗は冗談で言っているのではなく本気のようだ。とても心配そうな顔をするのだ。



パーティーの始まりは、西園寺家の現当主であるお父さんの話から始まった。


「本日はお忙しい、お集まり頂き有難うございます。本日は西園寺家の次期当主をご紹介させて頂きます。」


お父さんは陽斗に前に出るよう声を掛けた。



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