天才外科医は仮初の妻を手放したくない
カフェで珈琲を飲んでいると、私はトイレに行きたくなってしまった。
萩原なら大丈夫だと思い、雫を少し見てもらうよう頼んでしまったのだ。
「萩原先生、申し訳ないのですが、トイレに行きたいので少し雫を見ていてくれませんか。」
萩原は笑顔で応えた。
「もちろん、大丈夫ですよ。ゆっくり行ってきてくださいね。」
私は安心してトイレに向かった。
トイレを出て自分の席に戻ると、私の荷物は置いてあるが、萩原と雫が見当たらなくなっていたのだ。
私は咄嗟に隣に座っている女性に声を掛けた。
「ここに座っていた女性とベビーカーの子供を知りませんか?」
すると、その女性は驚くことを言ったのだ。
「あなたが立ってすぐにその女性はベビーカーを押して店を出て行ったわよ。私はてっきり知り合いだと思っていたけど、まさか違うの?」
私は全身から血が引いていた。
顔も手も冷たくなり、震えも出て来た。
私は店を出て、萩原を探すために走り出した。
どこをどう走ったか自分でも分からないほどに探し回ったのだ。
しかし、どこにも雫の姿は見えないのだった。